テクノロジーが進化し、「データサイエンス」という言葉が広く知られるようになった。だが今でも、その実務を担う「データサイエンティスト」という職業の実態はあまり知られていない。そこで本稿では、大手コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニー関西オフィスに所属し、日米で豊富な経験を持つ現役データサイエンティストの筆者が、ベールに包まれた業務の一端と、この仕事に就くまでの道のりを明らかにする。(マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー 工藤卓哉)
テクノロジーが進歩しても
データサイエンティストの実態は謎のまま
データサイエンスという言葉が2010年代初頭に米誌『ハーバードビジネスレビュー』で紹介されてから、十余年が経過した。今では、この言葉はビジネス界で広く知れわたっている。
だが、かつては製薬会社の臨床試験の担当者や、製造現場における統計的品質管理(SQM)の担当者など、一部が用いていたにすぎない言葉だった。
では、なぜデータサイエンスは脚光を浴びたのか。最大の理由は、この分野の根幹技術である「機械学習」が持つスケーラビリティー(拡張性)が広く認識されるようになったことだ。
例えば、Googleが提供している広告配信サービス「Google AdSense」。機械学習が使われており、専用のコードが埋め込まれた無数のサイト構成とコンテンツを自動で分析し、大量に入稿される広告を瞬時に最適化している。
多言語展開にも対応し、サイト運営者とGoogleの双方に莫大な広告収益をもたらしている。人力処理の場合だと、1人当たり1時間に数サイトの最適化が関の山だろう。機械学習の最大のメリットは、処理能力を飛躍的に高めることで、オペレーション面/財務面を効率化できることだ。
だが、データサイエンスという分野の知名度は向上したものの、企業の現場で実務を担う「データサイエンティスト」の業務内容はあまり知られていないままだ。「ベールをまとった、難しい職業」という漠然とした印象を持つ人も多いだろう。
申し遅れたが、実は筆者はデータサイエンティストだ。マッキンゼー・アンド・カンパニー関西オフィスに所属し、データ活用によって顧客企業にインパクト(価値)をもたらすプロジェクトに携わっている。現在の活動拠点は日本が中心だが、米国で長く経験を積んできた。
現役のデータサイエンティストは実際にどんな仕事をしているのか。どのような道のりをたどって、この仕事に就いたのか。私の経験を通して具体的に紹介しよう。