元マイクロソフト日本法人の会長で、現在は慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の古川享さんをホストに迎えて、古川さんが日本を変えていく存在と期待を寄せるスマート・ウーマンの方たちとの対談を掲載しています。林千晶さんは、花王でマーケティングを担当された後、アメリカに渡りジャーナリズムを専攻。滞米経験から起業を志向するようになり、ロフトワークを起業されました。ロフトワークは現在、1万6000人のクリエイターネットワークを核に、幅広いクリエイティブサービスを提供しています。ワクワクしたい、という生身の感覚を大切にすることが、ビジネスやサービスのイノベーションにつながっていく、とおっしゃいます。
ハーバード卒でなくても、起業してみせる!
古川享(以下古川):林さんと僕は、これまで4、5回会っていて、共通の友人もたくさんいるんだけれど、一対一で話すのは今日が初めてですよね。
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Photo by Sam Furukawa
林千晶(以下林):そうなんです。古川さんは、いつも目を輝かせてギークな会話をなさっているので(笑)、素敵だなと思っていました。いつかお話ししたいと思っていて、実現して嬉しいです。
古川:林さんは今、ロフトワークの代表取締役、米国NPOクリエイティブ・コモンズの文化担当、そしてMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長補佐も務めています。やりたくてもなかなかできない役職に就かれていますが、まず、ご自分で創業されたロフトワークについて伺います。何をする会社か教えていただけますか。
林:ロフトワークは大きく言うと、世界中のクリエイターとクライアントを結びつける会社です。今は1万6000人のクリエイターが登録していて、そのネットワークを核に、新規ビジネス開発やwebサービス開発、コンテンツ企画、広告プロモーションなどのサービスを提供しています。設立したのは2000年です。私は1998年からボストン大学大学院に留学していたのですが、向こうへ行ったことがきっかけで、諏訪(光洋氏。ロフトワーク共同創業者)と起業することになりました。
当時は、くっついていないものがネットによってくっつくことがとても新鮮でした。特に人の可能性や能力がつながるきっかけをつくれたら面白いだろうなと思っていました。
これを日本のクリエイティブ・プラットフォームとして育てたいと思い、帰国してロフトワークを設立しました。当時のアメリカではみんなが「やってみよう!」と気軽に起業するので、私たちもそのノリで始めていました。帰国した直後はまだアメリカ的思考回路だったのでしょうね、「会社を始めるから、投資しない?」と友人知人に聞いてまわっていました。
古川:日本で資金を集めて起業するのは大変でしたか?
林:そうですね。当時、日本の中で割と名前の知れたIT系企業のトップの方を知人や父親に紹介してもらって、投資をお願いに行ったのですが、ことごとく断られましたね。
ある企業のトップの方は、会うなり「お嬢さんはハーバード出てる?」と聞いてきました。それくらいの学歴がないと起業しても無理だと。それを聞いてくやしくて、六本木の街を泣きながら歩いたのを憶えています。
でも同時に、将来「ハーバードは出ていなけれど、やりました、と言ってやる!」と思いましたね。この方をはじめ、多くの人がクリエイティブ系のビジネスはスケールが生まれないし儲からないから無理だよ、とお金を出してくれなかったです。