原発事故への対応、日本企業の凋落を機に、日本的組織の欠陥を暴いた名著『失敗の本質』が再び脚光を浴びている。日本人は失敗から学ぶことが苦手だ。戦時中、日本最大の組織であった軍の特性は、戦後も企業へと無批判に受け継がれ今日に至っている。日本人は“あの時”と何も変わっていないのだ。今こそ、失敗に真摯に向き合う時である。数々の経営者が「私の教科書」として取り上げる同書だが、一方で難解な著書としても有名な一冊。この本から、日本の明日へのヒントをどう読み解けばいいのだろうか。連載最終回は、名著のメッセージを現代に活かすための3つの戦略について。
ようやく「失敗」に向き合い、
弱点を乗り越えようとする日本
約70年前の大東亜戦争において、日本軍が露呈した組織的欠陥を精緻に分析した名著『失敗の本質』。そのエッセンスを紹介する5回の連載記事も今回で最後となりました。
戦後経済社会における“平時的状況”は去り、今こそ大東亜戦争の後半戦のように、日本が苦手とする大転換期を迎えているのではないか。私たちは今、名著が約30年前に予言していた通りの状況に陥っているのではないか――。この連載記事ではいくつもの角度から、名著の指摘と現代日本の苦境の驚くべき共通点を解説してきました。
同時に1つだけ明るい光も差していると感じます。2011年の大震災後、「『失敗の本質』を読み返すべき!」という声が生まれたように、私たち日本人は過去の失敗にきちんと向き合おうという意識を持ち始めています。
戦後、日本軍の失敗は一部の指揮官の失敗として片づけられ、戦争に“加担”していたはずの国民も自らを「被害者」として考えるようになりました。そうして日本軍の失敗から読み取れる、この国特有の組織的な特性もまた無批判に戦後の企業組織へと継承され、今日にまでいたっています。驚くほど、“あのとき”の教訓は現代に生かされていないのです。
敗戦から、日本ほど驚異的な復興を成し遂げた国はないでしょう。震災後の復興においても、国民が助け合い一丸となる姿は世界中からも賞賛されています。しかし、前を向く強さとは裏腹に、原発事故対応への組織的な失敗はいつの間にかうやむやにされ、ほとんどの国民も教訓から真摯に学ぼうとするより、目の前を考えることで手一杯です。
『失敗の本質』を読み返そうという動きは、結局日本人は何も変わっていないという事実に向き合いながら、歴史上もっとも悲惨な敗戦という事例からようやく自らの思考・行動特性を見つめ直そうとする動きだともいえるのです。
『失敗の本質』は、当時“日本の頭脳”と言われた6名の優れた著者により書かれましたが、日本の組織が持つ弱点の本質を解明することで、私たち日本人がその弱点を乗り越えることを願って世に出されたはずです。
過去に表れた日本人の本質を深く理解することで、未来の失敗を乗り越える新たな英知を獲得する。今こそ、日本自体が本当の意味で「変わることができる」、その瞬間を迎えているのではないでしょうか。