TVやネットで動物の絶滅に関するニュースを目にすると、「守ってあげたい」と本能的に感じる人は多いだろう。実際、自然保護の現場では、動物の絶滅を防ごうとさまざまな取り組みが行われている。
しかし、絶滅種を人間の技術で蘇らせたり、絶滅しそうな動物を保護して繁殖させたりするのは、本当に「正しい」行為なのだろうか? そんな問いに正面から切り込んだのが、米国のジャーナリスト、M・R・オコナー氏の著書『絶滅できない動物たち』だ。
本書は、「絶滅を防ぐことは『善』なのか?」という倫理的な問題に焦点を当てた異色のノンフィクションで、Twitterでもたびたび話題を呼んでいる。本稿では、気候変動と絶滅の問題に触れつつ、本書の内容を一部紹介する。(執筆・構成/根本隼)

「知らなかった」では済まされない…動物の絶滅をめぐる「倫理的な大問題」とは?Photo:Adobe Stock

気候変動問題と日本は密接な関わりがある

 ここ数年、私たちの暮らしの中で、「脱炭素」「カーボンニュートラル」といった言葉を耳にする機会が増えた。2015年にパリ協定が採択されて以降、気候変動問題への関心が社会全体で高まっているためだ。

 実際、日本では災害レベルの猛暑や集中豪雨といった異常気象がたびたび発生していて、気候変動がもたらす問題に無関心ではいられない。

 たとえば、国立環境研究所のシミュレーションによると、2017年九州北部豪雨や2018年西日本豪雨のような「50年に1度の大雨」の発生確率が、地球温暖化の影響で1.5~3.3倍程度上がった。いずれも、気温上昇による水蒸気量の増加が原因と考えられている。

 このような現象は日本に限ったことではなく、世界中で大雨による洪水や干ばつ、前例のない猛暑を記録している。世界気象機関(WMO)は、2020年にロシアのシベリア地方で観測された気温38℃が、北極圏での観測史上最高だったと公式に認定している。また、同年には南極大陸でも、史上最高の18.3℃を観測している。

気候変動が生物の絶滅リスクに影響を及ぼしている

 当然、人間だけでなく野生動物にも、異常気象の影響は及ぶ。国際自然保護連合(IUCN)によると、絶滅の恐れがある野生生物の数は2000年に約1万1000種だったのが2021年には4万種へと、4倍近くに急増した(※)。そして、このような絶滅リスクの高まりの一大要因として「気候変動」が挙げられているのだ。

※出典…https://www.iucnredlist.org/ja/resources/summary-statistics

 もともと、野生生物は人間の開発によって生息場所を追われつづけてきたが、気候変動で状況はさらに過酷化しているといえるだろう。

絶滅を防ぐことは本当に「善」なのか?

 人間の行いが原因で動物たちが絶滅の危機に晒されていることに、心を痛める人は多いだろう。そこで、人類と動物の関わりについて深く考えるきっかけになる1冊が『絶滅できない動物たち』だ。

 本書は、実際の動物保護の現場における「絶滅」をめぐる倫理的な問題に切り込んだノンフィクション。「絶滅を防ぐことは本当に『善』なのか?」という難しい問いを取り上げた斬新な内容は、Twitterなどでたびたび話題になっている。

人間は生態系を人為的に操っている

 著者でジャーナリストのM・R・オコナー氏によると、地球温暖化や乱開発によって生物の絶滅を加速化させていることと、優先して保護する生き物を選択したり、その救済方法を判断したりしていることも、生態系を人為的に操っているという点で変わりはないという。

 人間による「保護する動物とその手段の選別」自体が、野生生物の進化の道筋に大きな影響を与えているからだ。さらに、種を救おうとする人間の干渉度合いが深まるほど、その種の「野生性」と、自然環境で生き抜いていく「自律性」が損なわれてしまう。

 だからこそ、自分たちが地球や種に与えている進化の影響をきちんと認識したうえで、意識的に進化を誘導したり、操作したりしてよいのかどうか議論すべきだ、とオコナー氏は警鐘を鳴らしている。

 次回以降は、『絶滅できない動物たち』より一部を抜粋・編集し、本書の具体的な内容をご紹介していく。