今回は、長年、親元で引きこもっていた40歳代のMさんが、初めて1人暮らしを始めるまでにいたった過程を紹介したい。

困窮状態の両親と同居する息子
親子間にできた負の連鎖

 Mさんは、子どもの頃からずっと、親元を離れられなかった。

 大学を卒業したとき、すでにバブルは崩壊。ようやく就職した会社も、ストレスによる体調不良で2年ほどして退職した。

 以来、就職がうまくいかず、アルバイトを転々としたものの、次第に仕事に就くことができなくなった。

 こうして大人になってから働き続けられなくなっても、親や周囲がサポートできないまま、ずっと見過ごされてきた。

 だからといって、親が悪いともいえない。Mさんの両親もまた、何らかの問題を抱えていた。貯金を切り崩して生活するほど困窮状態にあり、日々を生きていくのに精一杯で、収入のないMさんは、「家の中に居づらい状況」に追い込まれていたのだ。

 Mさんの家庭は、親子間で負の連鎖を生んでいる典型的な例だった。

「働いて自立したい。でも、どうすればいいのかがわからない」

 そんなMさんからの連絡をきっかけに、初めて待ち合わせしたとき、地方の駅の改札口で待っていたのは、Mさんの母親だった。

父親が突然倒れたことが後押しに
生活保護申請を決意

 Mさんは「他人の視線が怖いから」と、人混みを避けるように地下道の陰に隠れていたのである。

 Mさんは、典型的な「引きこもり」タイプのように思えた。以来、Mさん親子に関わり始めて、家庭内で“ネグレクト”状態にあったMさんを一刻も早く親から引き離したほうがいいと考え、支援団体に相談した。

 というのも、Mさんは常々、親と一緒に同居していることによって、将来への恐怖心を訴えていたからである。