多くの日本人は気づいていなかったが、2000年以降のアメリカでこの100年起こっていなかった異変が進行していた。発明王・エジソンが興した、決して沈むことがなかったアメリカの魂と言える会社の一社、ゼネラル・エレクトリック(GE)がみるみるその企業価値を失ってしまったのだ。同社が秘密主義であることもあり、その理由はビジネス界の謎であった。ビル・ゲイツも「大きく成功した企業がなぜ失敗するのかが知りたかった」と語っている。その秘密を20数年にわたって追い続けてきたウォール・ストリート・ジャーナルの記者が暴露したのが本書『GE帝国盛衰史 「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか』(ダイヤモンド社刊)だ。電機、重工業業界のリーダー企業だったこともあり、常に日本企業のお手本だった巨大企業の内部で何が起きていたのか? 同社が誇る歴代リーダーを育んだ、伝統的事業を売却したCEOは、何を考え、社内外からはどのような反応が生まれたのか?(訳:御立英史)

カラフルな本体Photo: Adobe Stock

GEプラスチックスの売却

 GEのなかでも特に歴史のある事業が売却された。

 ウェルチ、イメルト、ボーンスタイン、その他数え切れないほど多くの人材を育てた、GEプラスチックスが売却されたのだ。1930年に設立され、マサチューセッツ州ピッツフィールドの繁栄を牽引したこの部門は、レキサンの発明で世界を変えた。世界中の製品で使われたプラスチックペレットである。スティーブ・ジョブズのアップル復帰を華々しく告げた有名なデスクトップパソコン、iMacG3のカラフルな本体も、この部門でつくられた。

 イメルトは、レキサンやその他の製品の存在を一般消費者にも知らせようと、お得意のマーケティングに資金を投入した。インテルが「インテル・インサイド」のステッカーで自社のチップの品質を広く知らしめたように、プラスチックスのマーケティング部隊は、自社の製品群を消費者が識別できるようにしたいと考えた。

 GEは、インターネットを使った初期の社内実験として、「ポリマーランド」というサイトを立ち上げた。安っぽいアミューズメント・パークのような名前だが、家電製品や機械部品の製造に必要なプラスチックのB2B販売を行うサイトだ。

 だが、結果は出なかった。ネット時代のバズワードや商品ステッカーで飾っても、利益率の低下はカバーできなかった。特に原油価格の高騰は、GEプラスチックスの原材料コストを圧迫した。その結果を見て、イメルトはプラスチックスをサウジ・ベーシック・インダストリーズに116億ドルで売却した。

依然続く金融依存

 イメルトは、GEはプラスチックスの売却で「成長を速め、収益を拡大し、業績を向上させ続ける事業群」を支えられると述べた。もちろん、売却で得た現金は、自社株を大量に買い戻すためにも使われた。猛烈な買収と売却を続け、金融サービスへの依存度を高めながら、イメルトは投資家に、GEは自分たちが何をしているか完全に理解している、と請け合った。20世紀を代表する優良企業として信頼に応える姿勢は変わらないが、未来をリードすべく、革新的な道を切り開こうとしているのだと力説した。

 イメルトは、リスクは適切に管理されているとも述べた。2006年の投資家への手紙に、GEは5600億ドル以上の金融資産を保有しているが、「業界の平均以下の損失で」管理できていると書き、キャピタルの取締役会が適切に目を光らせていることを自画自賛した。すべてのディールについて、CRO(最高リスク管理責任者)のジム・コリカから見解を記したメモが提出されていることや、それについて「コリカと2人で1時間ほどかけて検討している」ことにも言及している。

 しかし、社内の批判はなくならなかった。GEの企業文化はイメルトが外に向けて語っているものと全然違うと感じた人びとは、そもそもイメルトはキャピタルの仕組みを理解していないのではないかと疑った。その批判や疑問が当たっているかどうかはわからないが、確かなことは、GEは安定した利益を上げるために、常にGEキャピタルに頼っていたということだ。