それにもうひとつ、「どんどんやって」みたいに叫ぶテレビに向かって私は、「じゃあ、一週間後に引っ張らせて」と叫んで笑っていた。テープを着けたばかりなら、まだ粘着力は強力だろう。汗をかき、髪を洗い、粘着力が弱くなった一週後、あるいは十日後に引っ張っても同じ強度を維持しているだろうか。

 もしちょっと引っ張って(もちろん真上にでなく頭皮に沿って横に引っ張って)剥がれるようなら、大変なことになる。まして、あの製品を着けるときは、粘着力を高めるために、中途半端に生えている自毛はすっかり剃りあげる。本来ある以上につるつるの状態になった頭皮をさらしてしまう羽目になる。

信頼に足るカツラの情報は
ネット時代の今もまだ少ない

 巧妙に作られたCMは、このように美しき誤解を見る者に与える。薄毛に悩み、藁をもつかむ思いでカツラ・メーカーに駆け込んだ同志が、そこで幻想とはまったく別の現実に直面し、茫然としたという告白をもう何度、聞かされたことか。

 メーカー側は、潜在的にカツラーになる可能性を持っているユーザーと直接接触できれば、販売に向けた大きな進展になるのだという。なんとか最初の接触を取りたい、ユーザーに行動を起こさせるために、あらゆる知恵を絞ってメーカーはCMづくりに力を注いでいるのだ。

 実際にカツラを使った者でないと、こうしたからくりはなかなか見抜けない。なにしろ、カツラに関する信頼に足る客観情報はネットが普及したいまも少ない。メーカーの広告宣伝の情報がまだ主流を占めている。

 カツラを使い始めたら、何より着け心地、日常生活で制約がないことなどが重要なカツラの条件になる。だが、それを想像できない未経験者はどうしても「見た目の自然さ」ばかりに意識が行く。そこもまたCMの罠のひとつである。

(次回に続く)


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