映画『ロッキー』の生卵飲み干しシーンで米国人観客が悲鳴を上げた理由写真はイメージです Photo:PIXTA

TKG、とろとろオムレツは
日本特有?

 映画『ロッキー』は、1976(昭和51)年製作のシルベスター・スタローンの出世作だ。無名のボクサーにアメリカン・ドリームのチャンスをと、世界ヘビー級チャンピオンと戦うことになったロッキー。

 朝4時に起きてお金のないロッキーが栄養補給のために、縦長コップに生卵を5つ割り一気に飲みほす場面がある。

 日本人の感覚で見れば、生卵を箸で溶かないで醤油もかけずにそのまま飲み込むなんて何と根性がある奴で、試合のために気合が入っているとしか思わないであろう。

 しかし、アメリカでの公開時、この場面になると観客からは一斉に悲鳴とブーイング、さらには嗚咽の嵐に包まれたと聞く。

 海外では生卵につくサルモネラ菌で食中毒の危険性もあり、生の卵を加熱もせずに食べるのは自殺行為でありえない映像だからだ。そうした“常識”から考えると、ロッキーは、貧乏で仕方なく命がけで生卵を飲んでいたということになるだろう。これは、危険を承知で試合に挑むタフガイなボクサーを、視聴者に見せつける演出だったと思われる。

 しかし、アメリカの観客たちはそれよりも命に関わる問題点を強烈に感じ捉えられてしまったようだ。実際にスタローンはこの撮影を嫌がり、特別ボーナスを勝ち取ったそうだ。

 余談だが、76年はアメリカ建国200周年にあたり、舞台のフィラデルフィアは独立宣言が行われた“アメリカ誕生の地”として意味がある。そして、ロードワークで走る場面、市場のオヤジから投げられたフルーツ(オレンジとリンゴ説の両方がある)をキャッチする姿も印象的だ。予算がないB級映画で小規模クルーが映画のロケとは思われず、本物のボクサーの撮影と間違えられたハプニング映像だったという。これは当時、まだ誰も知らない無名の役者、スタローンが生んだ偶然の産物なのだ。その後、この映画は大ヒットし(アカデミー賞の作品賞、監督賞、編集賞などを受賞)、まさしくアメリカン・ドリームを勝ち取ったのがスタローンその人だった。そしてこの8月、シリーズ最大のヒット作「ロッキー4」をスタローンが再構築、「ロッキーVSドラゴ ROCKY IV」が公開。42分の未公開シーンが入り、スタローンが長い間、自分が理想とする作品に作り直した。

 さて、今回のテーマ、生卵の話に戻ろう。「卵」と「玉子」の違いとは、加熱前の生を「卵」(例:生卵、卵かけご飯)、加熱され調理されると「玉子」(例:玉子焼き、厚焼き玉子)とするのが一般的。ただし、「卵焼き」「茹で卵」と例外の表記もあり、ややこしい。

 日本では卵の衛生管理が徹底されており、T.K.G.(卵かけごはん:卵、かけ、ご飯の頭文字)という用語も定着しており、専門店も数多く出来ている。

「T.K.G.」という言葉は、2007年に出版された料理本『365日たまごかけごはんの本』(T.K.G.プロジェクト、読売連合広告社)がはじまりといわれている。

 とろとろオムレツも日本人特有の好みのものだ。ある日本の外資系ホテルで、ブレックファースト・ミーティング(朝食を取りながらのビジネス・ミーティング)を海外から来た外国人とおこなっていたときのこと。そのホテルでは、朝食時にコックが目の前で注文に応じて、個々のオーダーでオムレツを作ってくれるサービスがあった。

 その際、外国人がコックにクレームを言っている場面に出くわした。どうやら、頼んだオムレツがとろとろ状態だったのがお気に召さなかったようで、ハードなものに作り直してもらっていた。日本では当たり前の料理が、外国人にはそうでもないらしい。