「静かで控えめ」は賢者の戦略──。そう説くのは、台湾出身、超内向型でありながら超外向型社会アメリカで成功を収めたジル・チャンだ。同氏による世界的ベストセラー『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』(ジル・チャン著、神崎朗子訳)は、聞く力、気配り、謙虚、冷静、観察眼など、内向的な人が持つ特有の能力の秘密を解き明かしている。騒がしい世の中で静かな人がその潜在能力を最大限に発揮する方法とは? 本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。
重要な会議に「遅刻」したら?
アメリカのある州政府で働いていたとき、州間ハイレベル会議に出席したことがある。
会議室には、しみひとつない豪華な絨毯が敷き詰められ、天井のきれいな照明器具をはじめ、美しい装飾がそこかしこに施されていた。
出席者たちは風格あるスーツを堂々と着こなし、連邦政府の代表者の姿もあった。言うまでもなく、これは非常に重要な会合であり、誰もが背筋を正し、粛々と執り行われるべき会合だ。にもかかわらず、あろうことか私たちのチームは遅刻してしまったのだ。
会議は最終段階に入った。
私はまだ羞恥心から立ち直れずにいた。とにかく、出だしでつまずいてしまったこの会議が、一刻も早く終わってくれることを願っていた。
賢明な同僚の意外な行動
──せめて1つ貢献する
ようやく会議が終わりそうになり、これで逃げられると思っていたら、隣に座っていた同僚のアメリカ人の女性弁護士が、いきなり手を挙げて意見を述べ始めた。
通常、このような序列が重んじられる会議では、発言するのは上級管理職のみだ。私は絶対に発言などしないし、この同僚も発言するはずがないと思っていた。
その後、会議が終わるなり、私は彼女のもとへ駆け寄って言った。
「ちょっと大丈夫? よく発言したね。まさかあなたが意見を述べるなんて、思ってもみなかった。どうして発言しようと思ったの?」
それに対する彼女の返事に、私は驚いた。
「私だって発言なんかしたくなかったけど、私たち、遅刻したでしょ? あのとき私が何も発言しなかったら、私たちは何ひとつ貢献しなかったのも同然じゃない」
「自分には注目しないで」という感じに逃げない
こうして「発言しない=貢献していない」という考え方にふれた私は、背中をバンと叩かれて目が覚めたような思いだった。
私はたいてい、ひとり黙々と仕事をしたいと思っている。
会議やクライアントとの面談や、電話や、同僚からの不意の連絡などに邪魔されず、目の前の仕事に没頭していたいのだ。
しかし、この経験が私に大きな影響を与えたことは言うまでもない。
私はつぎの職場では、「何も知らないおとなしい人」と見られることに甘んじないよう、最大限の努力をした。
(本原稿は、ジル・チャン著『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』からの抜粋です)
ミネソタ大学大学院修士課程修了、ハーバード大学、清華大学でリーダーシップ・プログラム修了。本書『「静かな人」の戦略書』は台湾でベストセラー1位となり、20週にわたりトップ10にランクイン、第23回Foreword INDIES「ブック・オブ・ザ・イヤー」特別賞に選出されるなど話題となっている。Photo by Wang Kai-Yun