「無口でも評価される人」と「軽んじられる人」の1つの違い

「静かで控えめ」は賢者の戦略──。そう説くのは、台湾出身、超内向型でありながら超外向型社会アメリカで成功を収めたジル・チャンだ。同氏による世界的ベストセラー『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』(ジル・チャン著、神崎朗子訳)は、聞く力、気配り、謙虚、冷静、観察眼など、内向的な人が持つ特有の能力の秘密を解き明かしている。騒がしい世の中で静かな人がその潜在能力を最大限に発揮する方法とは? 著者にZoomインタビューを敢行、同書について存分に語ってもらった。(取材・構成:田中裕子、写真:Wang Kai-Yun)

ただ無口だと「能力が低い」と見られがち

――チャンさんは著作『「静かな人」の戦略書』の中で、「当意即妙な受け答えができない」「電話をかける前には必ずメモを用意して深呼吸する」「パーティーのプレッシャーでじんましんが出て病院に運ばれた」といったご自身のエピソードを紹介されています。内向型人間はこんなにも苦労を抱えているのかと驚きましたが、こと仕事においてはどのように大変な思いをしているのでしょうか?

ジル・チャン(以下、チャン):内向型人間にとって、職場は「戦場」です。プライベートでは自分のキャラクターやバックボーンをわかってくれている家族や友人に囲まれているのでそこまで苦労しませんが、職場の仲間、とくに外向的な人たちにこの控えめな性質はなかなか理解してもらえません。

 加えて、「どう評価されるか」の問題もあります。内向型人間は口数が少ないこと、反応が遅いことなどから、「能力が低い」「効率が悪い」「やる気がない」と思われがちです。本人の希望にかかわらず、裏方仕事をあてがわれることも少なくありません。

 さらに、ひとり作業が好きでチームワークが苦手といったコミュニケーションスキルの低さによって、「リーダーに不向き」の烙印を押されてしまうこともしばしばあります。

「もっと発言しろ」「社交的になれ」と思われる

――チャンさんも、ご自身の性質のせいで評価されていないと感じたことはありますか?

チャン:それはもう、たくさんあります(笑)。とくにキャリアの初期には、マネジャーに「もっと発言しろ」「もっと社交的になるべきだ」「もっと顧客とうまく付き合ってほしい」とよく言われました。

「無口でも評価される人」と「軽んじられる人」の1つの違い

 もちろん彼も意地悪で言っていたわけではないとわかってはいますが、なかなか期待に添えず苦労しましたね。

外向型の「真似」は得策ではない

――外向的な人のほうが仕事ができるようにも、やる気があるようにも見える。この傾向は日本企業にも当てはまると思います。チャンさんはどのようにその困難を乗り越えてこられたのでしょうか?

チャン:じつはキャリアをスタートして10年ほどは、期待されている人物像になりきろうと必死に努力していました。

 たとえば、外向的で評価されている人の会議での発言や雑談の仕方をマネてみたり、イベントやパーティーでも彼らと同じように明るく振る舞ってみたり……。周りの人に好かれたかったし、理想の自分になってみたかったんです。

 実際、そうして外向的な人間を「演じる」ことで多少なりとも評価され、うまくいくようにもなっていました。

 でも、30歳になったとき、このままではダメだと感じるようになります。なぜかといえば、シンプルに「疲れるから」。活動的な人間を演じることでエネルギーが枯渇してしまい、すべき仕事に力を注げなくなることが多々あったのです。

「無口でも評価される人」と「軽んじられる人」の1つの違い

1つの違い:自分の特徴を「強み」にする

――いわゆる「求められる人材」になりきることで、ご自身の中でひずみが生じていた。

チャン:ええ。ちょうどこのころスーザン・ケインさんの『QUIET』(邦題:『内向型人間のすごい力』)を読み、自分が無理をしていることにあらためて気づきました。

 そして、「わたしは人と比べて劣っているのではなく、人と違うだけなんだ」と腑に落ちたんです。

 そこから自分らしさを生かし、かつ周りの人に評価される方法を模索するようになりました。内向型の「弱み」を克服するのではなく「強み」を生かすことが大切だと考え、仕事の仕方を変えていったんです。

 できないことに注目してくよくよするのではなく、自分ができることに集中しようと。

「無口でも評価される人」と「軽んじられる人」の1つの違い

「深く考えられる能力」「細部まで心配できる能力」を生かす

――この本がすばらしいのは、自分の欠点を受け入れるだけでなく、それを強みとして捉え直す方法まで書かれているところです。実際、内向型人間の「強み」とはどのようなところにありますか?

チャン:内向的な人は「深く考える」という特徴があります。そのため、全体を俯瞰して緻密な戦略を立てることが得意ですし、計画を立て、目標を達成するまで粘り強くそのプロジェクトに取り組むこともできます。リスクマネジメントに秀でているとも言えるでしょう。

 わたしも以前は、自分自身のこうした能力にまったく気づいていませんでした。むしろ周りの人から「心配しすぎだよ」「考えすぎだよ」と指摘されることが多かったので、それが自分の欠点だと思っていたくらいです。

 けれど実際のところ、「心配性」で「考えすぎ」なことは自分の強みだったんです。じつはちょうど先日、マネジャーからもその点を高く評価してもらったところです。

欠点を「武器」にする

――人に欠点として指摘されていたことが一転、自分の武器になったんですね。

チャン:そうですね。それは、わたしにとってもいい教訓でした。一般論を気にしすぎたり、世間の言説にすべて従ったりする必要はないと身をもって学べましたから。

 この社会では、しばしば「こういうタイプが成功する」「こういうやり方が成功する」と語られます。

 でも、わたしたち一人ひとりはちがう人間です。みんなが同じ方法で、同じように成功できるわけではありません。唯一の正解にすがるのではなく、自分らしさや強みを生かし、自分なりのやり方を見つけるほうが望む結果につながるものです。

【大好評連載】
第1回「無口でも評価される人」と「軽んじられる人」の1つの違い
第2回「ストレスに強い人」「弱い人」考え方の1つの違い
第3回【雑談がラクになる】「ちょっとした会話」に使える話題ベスト3
第4回 うるさい「高圧的な人」を一発で黙らせるシンプルな一言
第5回「謙虚でも自然に評価される人」がしている1つのこと

「無口でも評価される人」と「軽んじられる人」の1つの違いジル・チャン(Jill Chang)
ミネソタ大学大学院修士課程修了、ハーバード大学、清華大学でリーダーシップ・プログラム修了。ハーバード・シード・フォー・ソーシャル・イノベーション、フェロー。アメリカの非営利団体でフィランソロピー・アドバイザーを務める。過去2年間で行ったスピーチは200回以上に及ぶ。15年以上にわたり、アメリカ州政府やメジャーリーグなど、さまざまな業界で活躍してきた。2018年、ガールズ・イン・テック台湾40アンダー40受賞。本書『「静かな人」の戦略書』は台湾でベストセラー1位となり、20週にわたりトップ10にランクイン、米ベレットコーラー社が28年の歴史で初めて翻訳刊行する作品となり、第23回Foreword INDIES「ブック・オブ・ザ・イヤー」特別賞に選出されるなど話題となっている。現在は母国の台湾・台北市に拠点を置きながら、内向型のキャリア支援やリーダーシップ開発のため国際的に活躍している。
「無口でも評価される人」と「軽んじられる人」の1つの違い