上昇する物価と、上がらない給料、そして将来への先行き不安。そんな状況から「投資」を始めた人も多いのではないだろうか。しかし多くの日本人は「投資」と「投機」を混同している。「投資」は、短期間に株の売買を繰り返すことではない。選び抜いた企業のオーナーとなり、その成長を長い期間で楽しむのが「投資」だ。企業を選び抜くには、さまざまな分析と考察が必要である。その思考法が書かれたのが『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』(奥野一成)である。「投資家の思考法」を身につければ、投資はもちろん、あなたのビジネスも成功に導かれるはずだ。
「強い企業」の株価は、長い目で見れば必ず上昇する
企業価値が複利的に増大したとしても、それが株価に反映されなければ、株式投資家は報われません。ですが、心配しないでください。価値が増大していく企業の株価は、タイムラグはありますが、長期的には上昇していきます。
株式市場で付いている株価は、必ずしも企業価値を反映していません。というか短期的に見ればほぼ確実に株価と企業価値は乖離していると言ってもいいでしょう。ですからどんなに素晴らしい経済性を持った企業が価値(≒その企業の将来利益の集積)を増大させていたとしても、その時の株価は全く反応しない、あるいはむしろ下がっているかもしれません。しかし、本来的に価値が上がっている企業の価格が下がっている状態を放っておくほど市場は愚かではありません。長期的には確実に企業価値の増大を反映した合理的な株価で評価されます。このことは、ウォーレン・バフェットの師匠であるベンジャミン・グレアムの言葉が絶妙に表現しています。
「株価は短期的には投票機(voting machine)だが、長期的には重量計(weighing machine)だ」。
インベスターは目先の配当を求めない
私の経験上も、本当に素晴らしい経済性を持つ企業の場合、複利的に膨れ上がる企業価値を反映して、株価も中短期的な浮き沈みがありながらも長期的には上昇していきます。そういう意味では、素晴らしい経済性を持つ企業のインベスターは、価値の複利効果を間接的に享受しているという言い方のほうが正しいでしょう。
強い企業に投資をすることで企業価値の複利的増大、その結果としての複利的な株価上昇を楽しみたいインベスターは、目先の配当など求めないのです。株主に配当している暇があるのなら、もっと企業価値を増大できるような事業投資の機会を経営者には見つけてきてもらいたいのです。
保有企業の強さと成長に確信をもって長期投資している投資家が、その企業に配当を求めることはアクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなものなのです。
もちろん、事業の経済性に乏しいダメな会社に投資しているのなら、その企業が上げてきた利益を配当せよ、ということは理論的に正しいです。むしろ全額配当してもらいたいくらいです。しかし、そもそもそんな企業に投資していると、目先の配当は取れたとしても企業価値そのものが時間とともに棄損していくので、株価も上がっていくことはないでしょう。高配当や株主優待のみに注目する投資の理論的な弱点はここにあります。
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(いずれもダイヤモンド社)など。
投資信託「おおぶね」:https://www.nvic.co.jp/obune-series-lp202208
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