上昇する物価と、上がらない給料、そして将来への先行き不安。そんな状況から「投資」を始めた人も多いのではないだろうか。しかし多くの日本人は「投資」と「投機」を混同している。「投資」は、短期間に株の売買を繰り返すことではない。選び抜いた企業のオーナーとなり、その成長を長い期間で楽しむのが「投資」だ。企業を選び抜くには、さまざまな分析と考察が必要である。その思考法が書かれたのが『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』(奥野一成)である。「投資家の思考法」を身につければ、投資はもちろん、あなたのビジネスも成功に導かれるはずだ。
魅力的な経済性を備えた事業ならば、経営者は誰がやってもいい
「○○さんという経営者の本やインタビューを読んで感動したので、その会社の株を買いたいのですが、奥野さんはどう思われますか?」
こういったことを、投資に関心がある方からたまに聞かれます。経営者か? ビジネスか? という議論は、投資のプロの世界においてもよく聞かれる議論です。
経営者が素晴らしくて事業の経済性も高い企業が上場していれば、誰だって投資をしたいと思いますよね。そういう企業の株価は既に高く評価されている可能性が高いとはいえ、長期保有が前提であればいい投資対象になるでしょう。逆に、経営者も事業の経済性も悪い会社が仮にあったら、そもそも検討に値しないでしょう。
残る選択肢として、経営者は素晴らしいが事業の経済性はイマイチのケース、あるいは、経営者はたいしたことないけれども事業の経済性が高いケースが考えられます。
私の答えは明確です。この2つの選択肢しかなければ、経営者はイマイチでも経済性の高い事業を営んでいる会社を迷わず選びます。なぜなら、経営者はいずれ交代するからです。しかし、事業の経済性は構造的なものですから、抜本的に事業転換しない限り変わりません。逆に言えば、魅力的な経済性を備えた事業であれば、構造的に利益をあげ続けることができます。極端な話、経営者は誰がやってもいいんです。こんなことを言うと、経営者の皆さんから怒られそうですが(笑)。
実際に経営史を紐解いて調べてみても、どんなに優秀な経営者でも、劣悪な経済性を持つビジネスを再生して成功した例は極めて少ないのが現実です。いっぽう、素晴らしい事業の経済性を持った企業に優秀な経営者が来れば、株価は一気に上がります。
ウォーレン・バフェットも、「愚か者でも経営できるビジネスに投資しなさい。なぜなら、どのビジネスにもいつか必ず愚かな経営者が現れるからだ」と述べています。だからこそインベスターは、まず事業そのものの経済性をきっちり見極めることが必要なのです。
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(いずれもダイヤモンド社)など。
投資信託「おおぶね」:https://www.nvic.co.jp/obune-series-lp202208
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