日本の大手材料系メーカーに約20年勤めていたが、研究者としてもっと活躍したいという気持ちから、サムスンのヘッドハンティングに応じた筆者。2010年、40代前半で韓国へ渡り、サムスンで働き始めた。韓国ナンバーワン企業であるサムスンでの仕事は、社内の文化も、専門職へのサポート体制も、外国人社員の国籍構成も、日本企業とは大きく異なっていた。筆者同様に引き抜かれた日本人社員の中には、1年程度で去って行った者も多く、さらには文在寅政権下で極端な反日キャンペーンが張られていた時期でもあった。内側から見たサムスンの強みや独自性、そして外国人社員がサムスンで生き抜くために気を付けるべき人間関係について、生々しく語る。(ビジネスライター 佐久間 俊)
研究者にとっては天国のような環境だが、技術以外のものも求められる
2010年、サムスンに引き抜かれて始まった韓国暮らし。前編ではヘッドハンティングの経緯と韓国で暮らして感じたことを述べたが、後編は実際にサムスンで働いてみて気がついたこと、社内事情などについて紹介していこうと思う。
入社して2年を過ぎた辺りからは生活に慣れ、3年を過ぎると日本へ一時帰国するのが面倒になってきた。単身者だったということもあるが、サムスンのフルサポート付きでの海外生活は、研究だけに集中すれば良いので研究者としてはまさに天国のような環境なのである。言葉の壁がある分、わずらわしい人間関係が無いのも良かった。サムスン社内において、日本人の敵は日本人であることが多いのだ。
昔はスペシャルな技術ノウハウを持った人であれば、数年在籍するだけで大金を稼げたそうだが、今は日本人が韓国企業に勤める場合、韓国人と一緒に働くための技術面以外の能力も必要になってきている。ヘッドハンティングされる人は、基本的な技術、ノウハウは当然みな持っているものだが、課題に対して韓国人社員が納得できるような技術指導ができなかったり、社内でのリーダーシップが取れなかったりする日本人は多い。
社内でのリーダーシップを獲得するためには、日本人社員は韓国人社員から嫌われたり、なめられたりしてはいけない。普段は会議も通訳を介して行うため、直接的な表現はマイルドにされて伝わり、言い争いになるようなことは滅多にない。しかし、韓国人と日本人は情緒的に驚くほど似ており、怒りや自信の無さなど気持ちのブレはすぐに読みとられてしまう。さらに日本語を理解している社員もとても多いので、そういう人にはもちろん伝わってしまうし、また、社内では日本人同士の会話も気を使わなければいけない。
結局は、仕事に対しても、人間関係についても、真摯に取り組まなければならないということだ。海外人材とはいえ、そういう態度でなければ厳しい状況に追い込まれてしまうのは、どこの世界でも同じであろう。
今後サムスンに入社する人へちょっとしたアドバイスをするとすれば、「日本のマンガ」の知識を習得しておくべきだと思う。韓国人は『ONE PIECE』(ワンピース)、『スラムダンク』、『ドラゴンボール』で育った人が多い。この3大マンガの大まかなストーリーくらいは把握している方が良い。かめはめ波の一発でも打てれば、人気者間違いなしだ。