変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。本連載では、そのために必要なマインド・スキル・働き方について、同書の中から抜粋してお届けする。(初出:2022年9月9日)

「常に仕事に追われている人」と「仕事を追う人」の決定的な違いとは?【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

対症療法的な打ち手では、問題は解決しない

 いまから15年ほど前、コンサルタントとして投資先の支援をしていたときの話です。私の役割は、まだ経営者としては駆け出しであったその会社の社長と一緒に経営の仕組みをつくり、業績を伸ばしていくことでした。

 当時、その会社には経営の仕組みが全くない状態で、日々トラブルが頻発していました。それぞれ対応しているのに、全く改善する気配がありません。

 私は、当時の上司に現場で起きたことを事細かに報告し、自分は毎日3時間睡眠で頑張っている、と訴えました。すると、その上司から烈火のごとく怒られました。

「現場でそんなことが起きるのは当たり前だ。お前の仕事は本質的な問題を解決することだ!」

 当時の私がやっていたのは、日々発生する個別の事象に対する対症療法的な対応にすぎなかったのです。典型的な「常に仕事に追われる人」になっていました。

 現場では、日々色々なトラブルが発生します。

 そのような状況の中では、目に見えている問題ではなく、その根本にある抽象化した課題を解決することが必要で、発生する現象に対する対症療法的な打ち手ばかりを講じていると、毎日エンドレスに働き続けることになってしまいます。

抽象化しないと本質的な解決策には、たどり着けない

 下図左側は思考停止の状態を表しており、発生した具体的な現象に対する対症療法的な打ち手を講じている状態です。右側は、思考の基本動作が出来ている状態を表しています。

 例題を用いて解説します。

「あるお客様から入金がされていないことに半年遅れで気づきました。この問題に対しての解決策を考えてください」

 この場合の対症療法というのは、未入金が発覚した時点で営業担当者から催促の電話をする、同じことが発生しないようその担当者を厳しく指導する、というものです。しかし、その担当者が1年後も指導事項を覚えている保証はありません。また、他のお客様からの入金が遅れた場合、会社として検知することは相変わらずできません。

 本質的な解決策とは、具体的事象を数多く集めてから一度抽象化して本質(真因)を抽出することで導き出すことができます

 例えば、毎月購入するお客様の未入金については営業担当者がすぐに気づくが、一年に数回しか購入しないお客様からの未入金は見落としがちだと分かります。また、営業所長がしっかりと指導している営業所では、未入金が少ないことが分かります。

 これらを抽象化して考えてみると、入金確認は営業担当者任せになっていて、入金状況をリアルタイムに把握する会社としての仕組みがないことが、この問題の真因だと気づくことができます。このようにして初めて、未入金の問題に対する本質的な解決策を講じることができるようになります。

仕組み化することで、抽象化思考が磨かれる

 世の中には、論理的思考や問題解決の本がたくさん出版されていますが、それらを読んだだけでは抽象化思考は身につきません。抽象化思考を身につけるためには、実践で試して失敗を繰り返しながら磨いていくしかありません。

 抽象化思考を最も早く身につける方法は、仕組み化することです。

 前述の資金回収の例では、経理が全てのお客様からの入金状況を毎月5営業日目に確認する、というのが仕組み化の例です。

 正しく仕組み化できているかどうかは、同じ問題が再発するかどうかで分かります。

 均質的で阿吽の呼吸も使える日本では、現場が気合と根性で頑張ることで、仕組み化しなくても問題解決できてしまうことが多くあります。

 しかし、終わり良ければ全て良し、と現場に甘えるのではなく、抽象化思考を鍛えて仕組み化をしていきましょう。

アジャイル仕事術』では、実際の仕組み化の事例以外にも、答えのない時代にすばやく成果を出すための技術をたくさん紹介しています。ぜひご一読ください。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。
2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。
現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
IGPIグループを日本発のグローバルファームにすることが人生の目標。
細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。
超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。