『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が20万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
小説を書いています。書けば書くほど、勉強が足りないことを痛感します。
最も困っていることは「語彙と表現の不足」です。
自分の創作のスタイルは、頭の中にある映像(景色、情景)を文章として出力するというものです。つまり、それらの映像をいかに言葉で表現できるかが肝です。
ですが、自分の持っている語彙と表現が圧倒的に足りず、無理やり書き上げても「なんか違う」という仕上がりになってしまいます。
類語辞典や例文集を開いても、本当にこの単語・文章がふさわしいのか判断できず手が止まってしまいます。
薄々気づいてはいましたが、まとまった文章を複数書くことになって、いよいよこの問題に直面することになりました。
自分はこの先、何があっても文章を書くことをやめないつもりでいます。そのためにも、この学習の機会を逃してはならないと考えて、質問させていただきました。
まずは映像の特性、言葉の特性を知るところからです
[読書猿の回答]
原理的にいうと、映像と言葉はやれるごとが異なっているので、お互いを完全に写しとることはできません。その特性と限界を理解することが、言葉の表現力を高める第一歩となります。
例えば、書き言葉で詳しく描写すれば速度が失われ映像の進行についていけなくなり、逆に速度を上げようとすれば詳細が失われます。これが小説が場面・説明・描写という3種類の言葉から成る理由ですが、このあたりは次の記事に解説してあります。
物語は作れたがどんな文章で小説にしていいか分からない人のための覚書
一方で、我々は、映像のごく一部を大雑把にしか見ていません。加えて多くのものを取り落としていることを、あまり意識していません。
このことは、例えば一枚の絵画を言葉で表そう/伝えようとしてみるとよく分かります。これは表現を高める練習にもってこいです。
絵画は止まっていて変化せず、逃げも隠れもしないので、移ろい行く出来事と違って、じっくり表現を考えるのを待ってくれます。
この辺は『独学大全』でも紹介した『観察力を磨く 名画読解』という書物が参考になるでしょう。
単語の選択や語彙力はその次の課題です。世界には自分が知らないだけで、眼の前にしている映像や事象を言い表すのにぴったりの言葉がすでに存在している、と考えたくなりますが、世界に対して言葉は常に足りません。これが私たちが今も書き続ける理由の一つなのだと思います。
一朝一夕にはいきませんが、今も生まれ続けている多様な言葉に沢山触れるしかありません。『文章・スタイルブック(別冊宝島 19)』が導きになるかもしれません。
しかし何よりも、自分が書いたものを読み返し、繰り返し違和感と不全感に頭をぶつけ、さらに書くことを繰り返すのが、迂遠なようで最善にして最短の道かと思います。あなたが書くことで広がる道行きに幸多からんことを。
今『文章大全』という本を書いているので(来年出版予定です)、こちらもお待ちください。