日韓首脳懇談では
徴用工問題に深入りせず

 首脳懇談では、元徴用工問題をはじめとする懸案問題解決に向けて外交当局間の協議を加速することで合意しただけである。

 直前の外相会談では徴用工問題について具体的な解決策が議論されておらず、首脳懇談も30分という短い時間で、この問題で進展があるとはそもそも想定していないだろう。しかし、33カ月ぶりに両国首脳の対話があったことは、韓国側の解決策立案に多少なりとも良い影響があるかもしれない。

 今後も元徴用工とその代理人は、従来からの主張を取り下げることはないだろう。したがって、韓国政府がより現実的な解決案を作成するためには、元徴用工とその代理人ではなく、広く一般の国民が「日韓関係がこのままではいけない」「日韓が協力するためには徴用工問題を解決しなければならない」との意識を持つように説得する必要がある。

 これまで韓国の国民は日本政府がかたくなだとの認識を持ってきた。今回「懇談」という形ではあるが日韓首脳の対話が実現し、日韓関係の改善に向けた一歩を踏み出したことにより、日本に対する意識に若干改善が見られれば、それが突破口になるかもしれない。

 韓国政府には、徴用工問題だけを取ってみれば、日本に何かできる余地はほとんどないとの認識で国民の説得に努めてもらいたい。

 尹錫悦大統領は、ニューヨークタイムズのインタビューで、日韓関係懸案の解決策として「グランドバーゲン(一括妥結)方式で未来志向的に解いていかなければならないと考える」と述べた。

 その中には、金融市場の混乱に対処するために緊急時に互いの通貨を買い支える通貨スワップや、戦略物資に対する輸出規制の緩和、サプライチェーン安定のための協力などがあり、さまざまな経済的なメリットが期待できる。それは韓国のみならず日本にも恩恵となるものであり、今後の日韓協議で論議されよう。