――筆者のウォルター・ラッセル・ミードは「グローバルビュー」欄担当コラムニスト
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英国の首相が政権初期にこれほどの混乱に直面したのは、ヒトラーによる攻撃が欧州全体に広がる中でウィンストン・チャーチルが1940年5月に就任した時以来のことだ。英史上最も長く君臨した君主である女王エリザベス2世の死去に伴う公式の服喪期間が明けるやいなや、リズ・トラス新首相の経済計画が発表されたことを受けて株式市場は動揺、金利は急上昇し、ポンドの対ドル相場は過去最安値まで下落した。
チャーチル元首相と同様、トラス氏も、同氏を極端な考えの持ち主だと考えて不信感を抱く保守党議員の裏切りを心配しなければならない。それだけではない。世界的なエネルギー危機の影響で、暖房コストは多くの家庭が賄えないほどの水準まで上昇しており、英国は厳しい冬を迎えようとしている。最近の世論調査によると、トラス氏が率いる保守党の支持率は、野党・労働党を10ポイント下回っている。次期総選挙の実施期限である2025年1月までに、トラス氏は状況を好転させねばならない。
トラス氏の計画をめぐる市場の最初のパニックは、すべて同氏のせいというわけではなかった。イングランド銀行(中央銀行)は先週、50ベーシスポイント(bps)の利上げを実施したが、米連邦準備制度理事会(FRB)の75bpsの利上げに比べて対応が鈍いと受け取られたことから、ポンドはリスクにさらされた。アジア市場では26日、「フラッシュクラッシュ」(相場の瞬間的な急落)が起き、ユーロが対ドルで史上最安値を試す中、ポンドは一時、1ポンド=1.03ドル近辺まで下落した。とはいえ、英資産の急落は決して、英国の新政権に対する信任投票ではない。