知る人ぞ知る問題解決メソッド、「問題解決の7ステップ」がついに書籍化する――。マッキンゼーで最も読まれた伝説の社内文書「完全無欠の問題解決への7つの簡単なステップ」の考案者であるチャールズ・コン氏みずから解説する話題書『完全無欠の問題解決』(チャールズ・コン、ロバート・マクリーン著、吉良直人訳)が注目を集めている。マッキンゼー名誉会長のドミニク・バートンは「誰もが知るべき、誰でも実践できる正しい問題解決ガイドがようやく完成した」と絶賛、グーグル元CEOのエリック・シュミットも「大小さまざまな問題を解決するための再現可能なアプローチ」と激賞している。本書では、「自宅の屋根にソーラーパネルを設置すべきか」「老後のためにどれだけ貯金すればいいか」といった個人の問題や「販売価格を上げるべきか」「ITの巨人に訴訟を挑んでいいか」といったビジネス上の問題から、「HIV感染者を減らすには」「肥満の流行をどう解決するか」といった極めて複雑なものまで、あらゆる問題に応用可能なアプローチを紹介している。本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。

マッキンゼーの「問題解決の7ステップ」はこうして生まれたPhoto: Adobe Stock

伝説の問題解決メソッドは
キヤノンによる無理難題から生まれた

 1980年代、ビジネススクールで学んでいたチャールズは、当時隆盛を誇っていた日本のビジネス慣習をもっと理解したいと考えていた。何十社もの日本企業に手紙を書き、夏季インターンに採用してくれるよう頼んだ。

 ほとんどの企業は返事をくれず、今年の夏は無職かもしれないと思った頃になって、カメラとプリンターのメーカーであるキヤノンの内海博士から手紙が届いた。キヤノンは欧米人初のインターンとしてチャールズを採用することになり、彼は間もなく日本に旅立つことになった。

 それは楽しい冒険に聞こえるかもしれないし、実際にそうだったのだが、大きな衝撃でもあった。チャールズは、本社から遠く離れた東京近郊の生産計画部門に出向することになり、職場まで電車を3本乗り換えて90分かかるキヤノンの男子寮に入れられた。日本語を話すことも、読むこともできなかった。

 そんな彼に、工場立地モデルを開発せよという、一見不可能と思える仕事が与えられた。工場をどこに立地するか決めるモデルを作れだって? 彼は絶望した。専門家が考えるべき問題のように思えた。

 しかし彼は、通訳してくれる同僚の助けを借りて、世界中のさまざまな場所で工場立地の意思決定を行った経験のあるチームにインタビューを始めたところ、パターンが浮かび上がってきた。地方自治体の優遇措置、税率、賃金水準、原料の輸送コストなど、どのような変数が関係しているのかを知り、ついには、どの変数の重要性が高いか低いかを突き止めた

 最終的に、彼は変数、影響の方向性や符号、要因の重み付けを把握するロジックツリーを作成した。そして、過去の工場立地の意思決定におけるデータでこのモデルを検証し、上級職のチームと議論して精度を改善した。そして、この小さなモデルが、複雑な工場立地を決定するための中核的なツールになったのである。

 その秘訣は、それまで分厚い報告書に埋もれていた複雑なトレードオフの状況が、わずか1ページで見られることにあった。こうすることで基準の論理が明確になり、変数の重み付けを議論できるようになったのである。

 このモデルのおかげで、悲惨な結果に終わるところだったインターンシップが救われた。しかし、それより重要なのは、問題解決において、比較的単純な論理構造とプロセス自体が意思決定をするうえで力になることをチャールズが確信したことである。これが7ステップの問題解決の核心である。

 問題解決が何を表すかは、人によって異なる。ロブが7歳の孫娘に小学校の様子を尋ねると、孫娘は「じーじ、私は問題解決がとても得意なの」と答えた。これはロブの耳に心地良いものだった! もちろん、彼女が言っているのは小学校で算数や論理問題を解くことについてだ。

 残念なことに、このような問題解決に不可欠な要素を体系的に教わることはめったになく、日常生活に関係のある問題に対処する方法が教えられることもほとんどない。私たちにとっての問題解決とは、私生活、職場、政策領域における複雑な課題に関して、より優れた意思決定をするためのプロセスを意味している。

『完全無欠の問題解決』で紹介する7ステップの問題解決アプローチの秘訣は、直線的な問題から、複雑な相互依存関係にある問題まで、ほぼすべてのタイプの問題を解決するために、同じ体系的なプロセスを踏むことにある。

 まず問題を定義し、管理可能な部分に分解し、優れた分析ツールを最も重要な部分に集中させ、そして調査結果を統合して強力なストーリーを伝えるという、シンプルでありながら厳密なアプローチを定めている。

 このプロセスには始まりと終わりがあるものの、問題解決は直線的ではなく、反復的なプロセスだとお考えいただきたい。それぞれの段階で問題に対する理解を深め、より深い洞察を得て、初期の答えを洗練していくのである。

 7ステップは図表1ー1に紹介されている。

マッキンゼーの「問題解決の7ステップ」はこうして生まれた
マッキンゼーの「問題解決の7ステップ」はこうして生まれた
マッキンゼーの「問題解決の7ステップ」はこうして生まれた

(本原稿は、チャールズ・コン、ロバート・マクリーン著『完全無欠の問題解決』を編集・抜粋したものです)