「ビッグデータ」はすでに流行りの段階を過ぎ、活用して効果を勝ち取る段階に進んでいる。活用の要となるのが、アナリティクスだ。ビッグデータはそのままでは膨大なデータの塊にすぎないが、分析によって価値を生み出す「情報」に変えられる。また、起きつつあることを予測できる、何通りものシミュレーションを高速に行える、リアルタイムなデータを使ってリアルタイムに意思決定できるといった利点もある。的確なビッグデータ分析環境があれば、経営者は、裏付けの下で最も優れた対策を選択して、すばやく実行できるのだ。SAS Institute Japan(SAS)の吉田仁志社長は、ビッグデータ分析は、ゲームのルールを変える「ビジネスのゲーム・チェンジャー」として機能し、日本経済全体のイノベーションの原動力にもなると語る。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン IT&ビジネス)

「今日の国民感情予報」で
政治家がネクタイを選ぶ時代が到来する

――「ビッグデータ」という言葉はITやビジネスの世界で定着した感があります。2012年11月のアメリカ大統領選挙でも、ビッグデータは大きな役割を果たしたといわれています。この言葉は、現代社会を読み解くキーワードの一つにもなってきているようです。

よしだ・ひとし
SAS Institute Japan株式会社代表取締役社長 兼 北アジア地域統括責任者。
1961年神奈川県生まれ。83年アメリカ・タフツ大学卒業後、伊藤忠入社。スタンフォード大学大学院コンピュータサイエンス研究科で修士号、ハーバード大学ビジネススクールでMBAを取得。ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ日本法人代表取締役社長、ノベル代表取締役社長などを経て、2006年より現職。
Photo by Shun Ohtsuka

 アメリカ大統領選挙では、オバマ陣営が、有権者に関する大量のデータを駆使して成功を収めました。同陣営は、従来行われてきたサンプル抽出調査や階層単位の傾向把握ではなく、「ある階層のどんな人は、どういうシチュエーションで何を言っているか」という個人の行動や発言を詳細に分析し、分析から導かれた洞察に基づくプロモーションをすばやく展開しました。ビッグデータとは、「Big Behavior(行動)」の把握でもあるのです。

 また、国連グローバル・パルスとSASとの共同調査では、ソーシャル・メディア上の会話で醸し出される「雰囲気」を測定して、失業率の増加を数ヵ月前に予測できるという結論に達しました。「雰囲気」に含まれるのは、食料品の買い控え、公共交通機関の利用増加、グレードの低い自動車への買い替えなどに関する一般の人々の会話の増減です。

 現代は、人、組織、経済、政治、リスクなどのすべてが、境界線を越えて密接につながった世界(Hyper-connected World)です。Hyper-connected Worldでは、今まで入手できなかった質と量のデータがオンライン上にあふれています。これらを活用することで、変化の予兆を察知し、競合に先んじて手を打つことができるのです。

 すでに、企業も、国も、「まだ起きていないが、起きつつあること」を事前に予測して、早めに対策を講じる段階に突入しています。天気予報を見て傘を持って出るかどうかを決めるのと同様に、政治家が「今日の国民感情予報」をチェックして、その日のネクタイの色や発言で使う言葉を工夫する時代がやってくるかもしれません。