今年の夏、何百人もの台湾人や香港人たちが東南アジアで人身売買の被害に遭っていたのをご存じだろうか。人身売買といっても、幼い子どもや若い女性ではなく、10~20代の若い男性、ビジネスマンが被害の中心だ。手口は「海外で好条件の仕事がある」と誘われ、航空券をもらってカンボジアやミャンマーなどに行くと監禁されて、犯罪に手を染めるよう強要されたり、身代金を要求されたりする。複数の海外メディアで何回も詳しく報じられる大きな話題となっており、ついに日本人男性の被害も出た。今回、この就職あっせん詐欺の被害に遭った男性に、詳しく話を聞くことができた。工場の責任者をしていた男性は、なぜ売られる事態になったのか?(中国・ASEAN専門ジャーナリスト 舛友雄大)
工場の責任者をしていた男性が、なぜ売られる事態になったのか
コロナ禍が始まって以来、日本でも出会い系アプリやSNSを通じた国際投資詐欺やロマンス詐欺の被害が多く報じられるようになってきた。たどたどしい日本語で近づいてきて、甘い言葉をささやいて結婚の約束をしたり、高額のお金を振り込ませたりしたその加害者は、今もカンボジアの港町に潜んでいるかもしれない。
今年の夏、東南アジア各国で大きな問題となっていた、中国語圏の男性を中心とする人身売買。就職あっせん詐欺に遭い、カンボジアで軟禁状態のなかオンライン詐欺に従事させられたビクター・テオ氏(仮名、41歳)に、今回、直接話を聞くことができた。
テオ氏はマレーシア華人(マレーシア在住で、中国語を話す中国系住民)のビジネスマンで、1児の父でもある。もともと、工場の責任者をしていたほどの人物が、なぜ、カンボジアで監禁されてオンライン詐欺に手を染めるような事態になったのか? 犯罪者たちの手口や、監禁された3週間の地獄の日々、また同じように“売られた”被害者たちの様子などについて、筆者にその一部始終を生々しく語ってくれた。