「すべての組織人」に不可欠なスキル

 このように、私は新規事業の創出に伴走するなかで、「ディープ・スキル」の重要性に気づき、その認識を深めてきました。新規事業を立ち上げるうえでは、さまざまな軋轢を避けることができませんから、必然的に「人間心理」や「組織力学」に向き合わざるを得なかったということなのでしょう。

 新規事業に限らず、「ディープ・スキル」は、すべての組織人、特にマネジメントに関わる人に不可欠なものです。業務プロセスがある程度固まっている既存事業であれば、そのシステムを手順通りに回し続けることが仕事(マネジメント)のように見えるかもしれませんが、それは「錯覚」です。

 先ほども書いたように、世の中の「不」を解消して、人々に喜んでいただくことこそが仕事です。規定のシステムを回すのが仕事ではないのです。そして、世の中の「不」は刻一刻と変化しています。それを敏感に察知して、その変化に合わせて、組織やマネジメントを変化させていくためには、「ディープ・スキル」を身につけた「仕事ができる人」になる必要があるのです。

 ただし、「ディープ・スキル」は底なしに深いテーマです。

 なにしろ、相手は「人間心理」と「組織力学」。私のような未熟者が扱うには、あまりに手強い相手です。

 だから、いまだ修行中の身でありながら『ディープ・スキル』という本を書くのには、かなりの勇気が必要でした。ただ、仕事をするうえできわめて重要であるにもかかわらず、これまであまり語られてこなかったテーマであるだけに、誰かが、その”空白”を埋める必要があると考え、あえてチャレンジした次第です。

 これまでの経験を踏まえて、真剣に一語一語を書き記したつもりですが、不足の部分も多々あると思います。その点についてはご容赦いただくとともに、ご意見・ご批判をお寄せいただければ幸いです。

 そして、読者のみなさまとともに「ディープ・スキル」を磨き上げ、よりよい仕事を成し遂げていきたいと願っています。

(本記事は『Deep Skill ディープ・スキル』(石川明・著)から抜粋・編集したものです)