史上過去最高のペースで増え続ける訪日外国人観光者(インバウンド)を取り込もうと、日本全国でホテルの開業ラッシュが続いている。狂乱バブルに沸くホテル業界で圧倒的な主導権を握るのが、ラグジュアリーホテルを中心に展開してきた外資系ホテルだ。その外資系ホテルは、いよいよビジネスホテルの分野にも参入し、「全方位戦略」を取り始めた。実のところ、「日本市場制覇」に向けて拡大路線を突き進む外資系ホテルの野望の裏には、“最恐の黒幕”の存在があった。特集『狂乱バブル ホテル大戦争』の#1では、外資系ホテルの野望の裏に潜む黒幕の正体、そして激変するホテル業界の構造と序列変化を解き明かす。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
「あと10年はホテルで食っていける」
インバウンド活況でホテル開業ラッシュ
ある平日の午後、東京・銀座4丁目の交差点。周囲を見渡すと、行き交うのはほとんどが訪日外国人観光者(インバウンド)である。渋谷や浅草といった東京の主要エリアだけでなく、大阪、京都、福岡といった主要都市でもインバウンドで溢れ返る風景は日常となった。
歴史的な水準の円安を追い風に、インバウンドは今年に入り、過去にないペースで増えている。3月は初めて月間インバウンドが300万人を突破し、3月から3カ月連続で300万人超えを達成。森トラストの推計によれば、2024年のインバウンドは約3450万人となり、過去最高だった19年のインバウンドの数を上回る見通しだ。
観光立国を推進する日本政府は30年までに、年間6000万人のインバウンドを誘致する目標を掲げている。その目標を達成した場合、インバウンド関連の市場は15兆円に上るとみられる。
ある大手デベロッパーの幹部は、日本に押し寄せるインバウンドを見て本音をこう漏らす。「まだまだインバウンドは伸び続ける。あと10年はホテルで食っていける」。
この幹部の本音を裏付けるように、近年は巨大マーケットを取り込むべく、さまざまなプレーヤーがホテル開発競争を繰り広げてきた。新型コロナウイルスの感染拡大によって、ホテル開発に急ブレーキがかかったものの、パンデミックをくぐり抜けて、22年以降は再び開業ラッシュとなった。
開業ラッシュに沸く日本のホテル市場において、圧倒的な存在感を示しているのが、世界最大のホテルチェーンである米マリオット・インターナショナルをはじめ、英IHGホテルズ&リゾーツや米ヒルトン、米ハイアット ホテルズ コーポレーションを中心とする外資系ホテルだ。ラグジュアリーホテルを誘致したい政府の方針もあり、全国各地の大規模再開発プロジェクトでは、高層ビルの上層部に外資系ホテルの開業を予定することが定番となっている。
そして、いよいよ外資系ホテルは「日本市場制覇」へアクセルを強く踏み込んだ。主戦場だったラグジュアリーやアッパーアップスケールのカテゴリーだけでなく、ミッドスケールと呼ばれるビジネスホテルの分野にまで参入する“全方位戦略”を取り始めたのだ。
これまで、主に国内ホテルチェーン同士の戦いだったビジネスホテル分野に外資系ホテルが進出することで、迎え撃つ日本勢のホテルがさらに熾烈な競争にさらされることは必至。日本のホテル市場は、ラグジュアリーからビジネスホテルまで全てのカテゴリーで、“戦国時代”に突入することになった。
外資系ホテルの全方位戦略により、日本のホテル業界の構造、その序列が大きく変わる可能性がある。実は、外資系ホテルの野望を強力にバックアップする“最恐の黒幕”が存在する。果たして、最恐の黒幕の正体とは。
次ページからは、外資系ホテルの野望を後押しする最恐の黒幕の正体をつまびらかにするとともに、外資系ホテルの全方位戦略が日本のホテル業界の構造、序列をどのように変化させ得るのかを解き明かす。