多くのビジネスパーソンから、「会議がうまく仕切れない」「無駄な会議だと言われる」「何度も似たような会議を繰り返してしまう」「結論が出ない」といった悩みを耳にする。しかし、「1ページ」のメモを事前に作り、その場で配布してうまく活用すれば、会議の進行は大きく変わる。何より、「1ページ」の力は、ミーティングをうまく仕切れなかった著者自身が、P&G、楽天、フェイスブック、MOON-Xと業界も会社も、自分の役割さえも変わっても、一貫して変わらず、実感し続けている。当連載では、『今すぐ結果が出る 1ページ思考』(長谷川晋)にまとめられている「1ページ」を活用した会議の進め方などを解説していきたい。
他社とのパートナーシップを提案する
ビジネスのパートナーシップを実現させるための「1ページ」です。例えば、自社のアルコールブランド「CRAFTX」から、新しいクラフトビールを出したい。そのために、ブリュワリーの経営トップに対して、ビールの共同開発・製造を提案したい。そう想定したときに使う「1ページ」を考えてみました。
大事な提案ですから、直接、話し合いをすることになりますが、私はこういうとき、事前に作った「1ページ」を持っていき、相手に手渡します。
「目的」「背景」「討議ポイント」「ネクストステップ」という「1ページ」の大きな流れは、ここでも同じです。
ただ、社内ミーティングでは「目的」「バックグラウンド」など、項目名でもいいかもしれませんが、社外向けのミーティングや商談では、少し無機質で唐突に見えることがあります。
また、相手がベテランの方であれば、横文字やカタカナ用語を多用しないほうが良いかもしれません。そこで、項目名も適切なものを、そのときどきで考えます。これもまた、相手を鬼リアルに想像した結果、です。
例えば、商談の冒頭から「ビジネス背景」というビジネスライクな言い回しは、しっくりこないかもしれない。もしかしたら、ビール業界の皆さんは、「ビジネスビジネス」していない面もあるかもしれない。
これもまた、想像力です。このようなことを考えずに、面白くワクワクする取り組みについて話す前から、ガチガチのビジネス感丸出しでいってしまったら、せっかくの商談もシラけた空気になるかもしれない。「1ページ」を作るプロセスで、そういう嗅覚を働かせることは重要です。
そこで例では「目的」ではなく、「今日お話ししたいことは?」としています。「背景・バックグラウンド」ではなく「(共有)自己紹介・会社の紹介」。
「討議ポイント」も、「(共有)どんな取り組みをイメージしているのか?」「(相談)コラボの可能性について」としています。ネクストステップも、「(確認・ドラフト案)NEXT STEP」です。
「(共有)どんな取り組みをイメージしているのか?」の部分では、「どんなビール?」「どこで提供するのか?」「いつ、どれくらい製造するのか?」といった、質問形式のわかりやすい文言に置き換えています。
中身の文章の展開や書き方も、業界やバックグラウンドの違う方でも伝わりやすいよう、注意しています。経営者の方が私より年上で、かつほとんど初対面という場面であれば、言葉遣いもしっかり考えたほうがいいでしょう。
情報を(共有)するパートでは、まず、自己紹介・会社紹介から入っています。なぜなら、まずは自分の紹介も含めて、ここで商談をするに至った経緯をきちんと話さないと唐突な感じがするからです。相手からすれば、IT企業であるフェイスブックの代表を辞めて、畑違いのビール業界で何をしたいのかもよくわからないかもしれない。それでも「なるほど」と納得してもらう、「ちょっと面白そうだな」と思ってもらえるように工夫する必要があります。
この例には入れていませんが、実際の場面であれば「1ページ」の裏面には新しいビールの具体的なインスピレーションやアイディアも追記すると思います。先で触れている「参照資料」=「アペンディックス」です。消費者に「どんなビールに興味があるのか」をインタビューした調査からの発見や、海外の面白い事例、自分なりに考えた新しいビールのコンセプトやデザイン、などを入れることを検討します。
「討議ポイント」=「(共有)どんな取り組みをイメージしているのか?」「(相談)コラボの可能性について」については、共有と相談をはっきり分けています。
どんなビールを造りたいと思っているか、どこで提供し、いつ、どれくらいの量を想定しているのか、という流れが共有。その上で、どんなWin-Winの可能性が模索でき、どんな役割分担で進めたいのか、を記したのが相談。
(相談)では、「意図」と「確認」を1行ずつ書き記しています。こちらが言いたいことを伝えるだけではなく、一つひとつ丁寧に相手と目線合わせをしながら進めていくイメージです。
そして、(相談)の項の最後には(質問)という1行を入れています。そもそもコラボが可能なのか。相手がこだわりたいポイントはどんなことか。相手に聞いてみたい質問を、あらかじめ書いておいて、先方にとっても答えやすくする工夫をしています。
最後の「ネクストステップ」にもこだわっています。かなりタイトなスケジュールですが、それもストレートに記載した上で、テスト販売の希望タイミングまで明記している。全国販売へとスケールさせる時期も、思い切って書いている。
自分目線だけで「とにかくやりたい」と書いていても、相手は乗ってきません。相手目線で少し考えると、ビールは発酵過程があるので、いつから造り始めて、いつ発売する、という時間軸が生命線になるはずです。
また、ビールには季節性があり、夏の繁忙期の前はどの工場の稼働も一杯になります。そのようなことをきちんと配慮しながら進めたいという意思表示をするためにも、タイムラインを書いたほうがいい。
MOON-X Co-Founder/CEO
2歳から9歳までアメリカ、シアトルで育つ。京都大学経済学部卒、体育会ハンドボール部主将。2000年に東京海上火災入社、法人営業担当。P&Gで10年間、Pampers・Gillette・BRAUN・SK-IIなどのマーケティングおよびマネジメントを統括。その後、楽天の上級執行役員としてグローバルおよび国内グループ全体のマーケティングを管掌。2015年Facebook Japanの代表取締役に就任、在任中にInstagramの国内月間ユーザー数は810万から3300万に。2019年8月に「ブランドと人の発射台」をミッションに掲げるMOON-X Inc.を創業。現在、自社D2Cブランドを展開すると同時に、共創型M&Aや他社ブランドの支援も展開中。『今すぐ結果がでる 1ページ思考』(ダイヤモンド社)が初の著書。MOON-Xコーポレートサイト:https://www.moon-x.com/ Twitterでは次世代ビジネスリーダー向けに「#ビジネスの戦闘力」を高める情報を発信中:@ShinHasegawa8
最初の商談なので、造る量についてもフワッとさせたいところですが、ここもイメージを書く。そうでなければ、リアクションのしようがないな、と相手の立場に立ってみたら感じるからです。
パートナーとなる相手にとってのメリットとしては、ある程度は量が見込めて、それでちゃんと売上と利益が上がることが挙げられます。それなら、どのくらいの量を造りたいのか、という議論は避けては通れないと思います。
そこまで踏み込んだディスカッションができるのが「1ページ」であり、それを作るために思考を研ぎ澄ませた結果なのです。
じっくり見ていただけるとわかりますが、さらりとまとめているようで実は濃密な内容になっています。もし、この「1ページ」の内容をパワーポイントで作成していたら、あっちこっちに話が飛んで、なかなか話がまとまらない可能性もあると思います。
相手の立場に立てば、おそらくコラボの可否を考えるときは、どんなビールを造ろうとしているか、数量はどうか、といった、いろんなことを幅広く理解した上で検討すると思います。だから、必要な情報が1枚にまとまっているほうがリアクションをしやすいと私は思います。
逆に新しい取り組みで、多岐にわたる情報を咀嚼(そしゃく)しながら話し合うような場面で、パワーポイントでどんどんスライドが流れていったら、「あれはなんだっけ?」ということになりかねない。
次々にスライドが展開していくパワーポイントは、場合によっては、最終的に何も記憶に残っていない、ということも起こりうるリスクがあります。100枚以上の壮大なプレゼン資料であれば、私は1、2枚しか覚えることができないと思います。とはいえ、大量のページをプリントアウトして持っていくのも何だか相手にとってありがた迷惑な気もする。
そう思うと「1ページ」で情報を研ぎ澄ませて、シンプルな1枚ものを持っていくことは、とても有効な手段の一つだと思うのです。
この「1ページ」を作る過程で、自分に足りないことも見えてきます。例えば、ビールについての知見。もちろん素人の域を出ないわけですが、それでもビール会社出身の知り合いに相談に乗ってもらったりして、それなりには調べます。
そうでなければ、ピント外れの数量を出してしまうようなことになりかねない。これでは、合意どころではなくなってしまいます。
このミーティングは、30分の想定です。大事なパートナーシップの提案でも、経営者との交渉ともなれば、30分しかもらえない可能性は大いにある。そこでグッと気持ちを惹きつけないといけません。言葉の使い方もそうですが、目的や時間軸も相手によってしっかりカスタマイズしていかないと、やはり難しい。
しかし、「1ページ」のベースとなる部分の考え方は同じです。きちんと目線合わせをした上で、話すべきポイントを整理し、一つひとつ確実に議論・確認していく。それをベストな状態で行うために、相手目線に立ってどうカスタマイズするか。それが社外ミーティングや商談では問われてくるのです。
※当記事は、『今すぐ結果が出る 1ページ思考』より一部を抜粋・編集したものです。