年功序列が崩壊し、男女平等も進み、インターネットによってどこに住んでいても平等にチャンスが与えられるようになった。「この世は実力主義」と言われるようになって久しいが、それは本当だろうか? 実際は、どの会社にも大して実力もないのに高く評価されている人が1人はいるはずだ。なぜ、彼らは実力もないのに評価されるのだろうか。その理由を解説した本がある。伝説のブログ「分裂勘違い君劇場」の著者・ふろむだ氏が書いた『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』だ。彼は、本書で「実力を磨くよりも、はるかに人生を好転させるもの」として「錯覚資産」を挙げる。本記事では、本書の内容をもとに「錯覚資産」とは何か、どうしてチャンスが巡ってくる人と来ない人がいるのかなどについてご紹介する。(構成:神代裕子)

人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっているPhoto: Adobe Stock

運がいい人は「錯覚資産」を活用している

「なんか、いつもいい話が回ってくる人っているよね」と人をうらやましく思ったり、「あの人、そんなに優秀なわけでもないのに、なんであんなに評価が高いんだろう」と腹立たしい思いをしたりしたことはないだろうか。

 実際、いつもチャンスを掴む人が必ずしも有能であるとは限らない。

「私の方ができるはず!」という思いが、決してあなたのひがみではなく、その通りであることも世の中には往々にしてある。

 では、「大して能力もないのに評価される人」と、「能力はあるのにいまいち評価されない人」の差は一体何なのだろうか。

 それは、「錯覚資産」を使えているかどうかにある、と本書の著者・ふろむだ氏は語る。

1つのプラスイメージが思考の錯覚を引き起こす

 では、「錯覚資産」とは何か。本書では次のように説明されている。

・「錯覚資産」とは、「自分の得になるような、他人の勘違い」である
・「錯覚資産」とは「思考の錯覚」である。「プラスのイメージを引き起こすもの」であれば、なんでも「全体的に優秀」という思想の錯覚を引き起こしてしまう
・「思考の錯覚」の場合、錯覚をしていること自体に、本人は、ほぼ気づけない
・知能が高く、有能な人であっても、自分の無意識が自分の知らないところで、勝手に脳内の評価値を書きかえるのを防ぐことはできない

 つまり、何か「この人は優秀だな」と思わせる要素が一つでもあれば、それがその人全体の評価を引き上げ、他人が勝手に「この人は全体的に優秀な人だ」と錯覚してくれる、というわけだ。

 この「錯覚資産」がうまく機能している人は、「この人は有能だ」と評価されるので、良い環境やチャンスを与えられ、結果的に実力が培われる。

 逆に、いくら実力があっても「錯覚資産」が使えていない人は、「錯覚資産」を有効活用している人ほどチャンスが与えられないので、いい経験を積むことができない。

 結果的に、いつの間にか「錯覚資産」を有効活用している人に実力も抜かされてしまうというのだ。

「世の中は実力社会である」と信じ、真面目にコツコツと努力してきた人からすると、憤懣やる方ない話である。

幸運の確率は、自分で上げられる

 こういった「思考の錯覚」「脳の勘違い」を利用すれば、幸運を引き当てる可能性も上げられる、とふろむだ氏は主張する。

 なぜなら、人の直感は次のような次のような判断ミスをするからだ。

1. 人間の直感は、「思い浮かべやすい」情報だけを使って、判断をする。
2. 人間の直感は、正しい判断に必要な情報が欠けていても、情報が欠けているという感覚を持たない。(P.213)

 本来であれば、物事の判断をするうえでは、いくつかの情報がないと正しい判断が下せないものであっても、「人は1つの情報だけを使って判断してしまうというミスをする」とふろむだ氏は語る。それがいわゆる「直感」である。

すぐに思い浮かばない情報は「無視」して確率判断するのが、「直感」というものなのだ。(P.216)
ほとんどの人は、確率判断するとき、冷静に考えない。「冷静に考える」なんていう面倒くさいことは、ほとんどの人は、ほとんどの場合、しないのだ。(P.217)

 そして、この「思い浮かびやすさ」をコントロールすれば、自分に都合のいい思考の錯覚を起こさせることができるという。それは、こんな具合だ。

 例えば、あなたがデザイナーとしてやっていこうと思うなら、しばらく連絡をとっていない友人・知人と、SNSなどを活用して連絡をとってみる。

 彼らとたまに会って一緒に食事をしながら話すだけで、相手はあなたのことを思い出しやすくなる。

 そうなると、その友人の周りで「誰か、いいデザイナーいない?」という話が出た時に、友人はあなたのことを口に出してくれる。

 これだけで、あなたが選ばれる確率は飛躍的に高くなる、というわけだ。

「思い浮かびやすい=候補として挙げてもらいやすい」という状況を作っておくことが、チャンスを掴むか掴めないかを左右するのだ。

内向的な人は、「チャンス」を逃している

 ふろむだ氏は、他にも勉強会や交流会などに参加し、自分のできることを具体的にアピールしておくことも勧めている。

 そうして、「できるだけ多くの人に思い出してもらえるようにしておくと、意外とチャンスが降ってくる」と語る。

 これは非常に簡単で、一見当たり前のことを言っているようだが、「意外と、できていない人はできていない」とふろむだ氏は指摘する。

 特に、「内向的な人は、これの威力を甘くみていることが多く、非常に多くのチャンスを逃してしまっている」と注意喚起している。

人生がうまくいくかどうかは、かなりの部分、「環境」に依存する。(中略)そして、それらが手に入れられるかどうかは、かなりの部分、運と思考の錯覚で決まる。(中略)だから、あなたはチャンスが発生したときに、そのチャンスを自分のところに手繰り寄せることができるように、思考の錯覚の網を広げておかなければならないのだ。(P.221-222)

 筆者も数年前にライターとして独立したが、例に挙げられていたように、独立前に知人にあいさつに回ったり、交流会や講座で「独立予定であること」「何が得意か」を伝えたりといったことをしていた。

 そのおかげか、独立してすぐにいくつか声をかけてもらい、スムーズにフリーランスとしてスタートを切ることができたことを思い出した。

 当時は、それが「錯覚資産」だとは思いもよらなかったが、「あいさつや交流会に行っておいてよかった」と思った記憶がある。

「思い浮かべてもらいやすくする」だけで、大きな仕事を回してもらえたり、転職のきっかけができたり、出世に有利に働いたりするというのだから、活用しない手はない。

 いくら「世の中、実力主義だ」といっても、実際、運が人生を大きく左右しているのだから。

 そして、「その幸運は自分の行動次第でいくらでも当たる確率を上げられる」と、この本は教えてくれているのだ。

 このことは、「実力主義」を信じて努力してきた人からすると、「なんだよ、それは!」と思うことかもしれない。

 しかし、その努力に「錯覚資産」を掛け合わせたら、きっとあなたもチャンスを手に入れられるようになるに違いない。

 知っているか、知らないかが人生を大きく左右する。本書はそんな「魔法の書」なのかもしれない。