「自社株買いの当たり年」予想、外れた訳はPhoto:Thana Prasongsin/gettyimages

――投資家向けコラム「ハード・オン・ザ・ストリート」

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 米国の大手企業は自社株買いを好み、政界はそれと同じくらい自社株買いを嫌っている。

 今年は株主還元策として米国企業に人気の自社株買いが過去最高となり、その上、買い入れ額が大台に乗る――聖人ぶった政治家に中指を突き立てるに等しい――はずだった。ゴールドマン・サックスなどはS&P500種株価指数を構成する企業の自社株買いが1兆ドル(約140兆円)を超えると予想していた。

 第1四半期の買い入れ額は2810億ドルに達し、出だしは好調だったが、その後、議会が決意を固め、ネットベースの自社株買いへの課税が盛り込まれたインフレ抑制法が夏に成立した。税率は1%で課税は来年1月から始まる。多くの法律がそうであるように、この新税も裏目に出て、自社株買いを抑制するどころか急増を助長するように思われた。しかしさまざまな理由で今年は自社株買いが1兆ドルに達することはおそらくないだろう。

「2、3カ月前に聞かれていたら、記録を達成する可能性がかなり高いと答えていただろう」。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスのシニアインデックスアナリスト、ハワード・シルバーブラット氏はそう話した。

 企業が自社株買いを実施すると、発行済み株式数が減り、1株当たりの利益は増える。株価が安いときに自社株買いを行えば見返りが大きいため、今年は下げ相場であるため新税導入が迫っていなくても、企業は積極的に自社株買いに資金を投じていただろうと考える人もいるかもしれない。ただ企業はタイミングを見て売り買いするのが非常に下手だ。フェイスブックを運営するメタ・プラットフォームズの例を見てみよう。同社はここ数年、最も多くの自社株買いを実施した企業の一つで、今年9月までの1年間に480億ドル相当もの自社株を買い戻した。1株当たりの平均購入価格は304ドルで、現在の株価の111ドルよりはるかに高い。さらに同社は今月、コスト削減のため1万1000人の人員削減を実施すると発表した。

 そこまで極端ではないにしても、米国企業全体もこのところ、読み違いをしている。S&P500構成企業の自社株買いは株価がピークだった第1四半期に過去最高を記録したが、下げ相場になった第2四半期の買い入れ額は前年同期比で約22%減少した。第3四半期はまだ決算発表が続いているが、シルバーブラット氏は16日時点で前年同期比約11%減と予想している。