「いい会社」はどこにあるのか──? もちろん「万人にとっていい会社」など存在しない。だからこそ、本当にいい会社に出合うために必要なのは「自分なりの座標軸」である。そんな職場選びに悩む人のための決定版ガイド『「いい会社」はどこにある?』がついに発売された。20年以上にわたり「働く日本の生活者」の“生の声”を取材し、公開情報には出てこない「企業のほんとうの姿」を伝えてきた独立系ニュースサイトMyNewsJapan編集長・渡邉正裕氏の集大成とも言うべき一冊だ。同書のなかから厳選した本文を抜粋・再編集してお送りする。

【出身大学&専攻別】「雇われる力」が一発でわかる“就活楽勝度マップ”

「学問に貴賤なし」だが……
「市場ニーズの高低」は現にある

 昨今の、「少子化・大学全入時代」に新しい学部を作るのは、定員割れリスクに直面する大学経営側からすると、勇気が要る。リサーチの結果、よほど社会にニーズがある、と見込んだものしか新設できない。新設学部・学科はウェブで簡単に調べられる。2022年4月入学の新設は、ざっと34あった。医療系、IT系、観光系、国際系が目につく。日本工業大学が「先進工学部 データサイエンス学科」を新設、國學院大學が「観光まちづくり学部 観光まちづくり学科」を新設、東京経済大学が「コミュニケーション学部 国際コミュニケーション学科」を新設、などは象徴的である。

 逆にいうと、こうした動きを無視した学部選びをした時点で、キャリアパスの難易度は高まり、就活での苦労も目に見えている。太いスポンサー(実家)がおらず、奨学金という名の学生ローンを借りて卒業しても、よい職に就けず、借金を返せない可能性も高い。世の中にニーズがなさそうだからだ。実に世知辛いが、日本経済は実際に過去30年間も成長が止まっており、世界のなかで相対的に貧しくなりつつある国なので、個人にも国にも余裕はなくなりつつある。アカデミックなキャリアを歩もうとしたら、ポスドク非正規研究者の不安定な生活も覚悟しなければならない。

 もちろん、どの領域を選ぼうが学問に貴賤はないし、将来を心配せず、自由に選んだ道を究め、学問で魂を磨くことができるような太っ腹な国になってほしいと願う。文学を究めて文学者になる、音楽や美術の世界で芸術作品を生み出す……といった、確率の低い「夢」を追うのは、すばらしいことだ。リスクをとれるのが、若者の特権である。ここでは、あくまで「市場ニーズの高いキャリア」という現実的な視点から、経済合理性や確率論を述べているにすぎない。

「儲かるキャリア」「儲からないキャリア」の
明暗がはっきり分かれつつある現代

 これは「学問の功利性」問題と呼ばれ、この10年ほどで特に重要性が増している、と感じる。あまり好ましいことだとは思わないが、デジタルIT化の進展によるニューエコノミー論は、どうやら事実として進行しているからだ。

 デジタルプラットフォーム独占経済がグローバルで進み、時価総額は、ついにGAFAの4社だけで、東証一部の約2170社合計を、上回るに至った(2021年7月)。サステナブルの分野では、EV(電気自動車)のトップ企業「テスラ」の時価総額が、化石燃料のトップ企業「トヨタ自動車」を時価総額で抜き(2020年7月)、その後の1年で、さらに4倍にまで引き離した。

 世界経済の構造は、根本から急速に変わっている。富の集中と格差拡大が進み、「世の中から求められ、経済的に報われる」という意味での「よいキャリア」と「よくないキャリア」の明暗は、はっきり分かれつつある。そういう、20世紀とはまったく異なる世界を、我々は生きなければならない。

 もはや、IT系(デジタル化)と医療系(少子高齢化)は、現場の人手として、別格のニーズが顕在化している。看護師に至っては、主に2~3年課程の養成所と大学の入学定員が増え続け、令和に入って、定員は年6万6000人超に。この職業は女性が8割超を占めるため、この人数は、同年生まれ女性60万人弱の、約1割にも相当する。20代前半で社会に出る女性の、およそ10人に1人が、看護師または准看護師になることを求められているのだ。そのくらい強烈なニーズがあり、就活で困ることはない。

 薬剤師も、町を歩けば、そこかしこに保険薬局ができ、ドラッグストアがあり、薬剤師が働いている。コロナ禍では、医師も看護師も、すべて不足していた。