不況を尻目に、住宅用火災警報器の市場が急拡大している。販売製品には国内規格「NSマーク」の取得が求められており、鑑定機関である日本消防検定協会に対する依頼件数が、2005年度の約250万件から08年度には約2350万件に急増しているのだ。
背景にあるのは、消防法の改正。06年6月から新築向け設置が義務化され、既存の住宅も市町村条例により、遅くとも11年5月末までに付けなければならない。設置場所はすべての寝室と寝室のある階段。自治体によっては台所等も対象となるだけに、一世帯当たり1~5個程度は必要となる。
現時点では世帯普及率が46%(今年3月時点、総務省消防庁推計)にとどまっており、仮に、未設置の約2400万世帯が1個4000円程度の警報器を平均3個買えば、新たな市場の拡大余地は3000億円に迫る。
市場は国内4社がほぼ独占状態。当初は、1万円台の国内製品に対し、半値以下で海外メーカーが挑んだが、誤作動の少ない国内の技術力と販売網、価格競争の激化などではね返された格好だ。昨年末に撤退した海外メーカーの関係企業は「需要はあるのに1%も取れなかった」と嘆く。
国内初の火災報知機メーカー、ホーチキが主力とする煙感知型は、センサー部分に直径0.4ミリメートルの網目を巡らしている。煙だけを追い込み、光の乱反射で作動する構造に、担当者は「特許の固まり」と自負。シェア5割のパナソニック電工も一つの警報器に連動して鳴る製品を開発。品薄状態が続く。この3年で生産能力が約10倍増しており、担当者は「一気にシェアを広げたい」と鼻息が荒い。
ただ、問題は警報器を設置しなくても罰則がないことだ。それでも、セコム損害保険のように火災保険料を1~3%割り引いたり、自治体が助成する動きも広がる。賃貸物件のオーナーも責任を問われかねないだけに“追い風”への期待も高い。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)