インフレ・円安により、日本人が一斉に貧しくなったと痛感した2022年。今後の景気はどうなるのか? 資産を守り・増やすにはどうすれば良いのか? 稼ぐ力を上げるための自己投資は何をすれば良いのか? そんな不安を解決するための糸口を見いだすべく、『最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい』(ダイヤモンド社)の著者で、つみたてでコツコツと資産をふやす長期投資を提言するセゾン投信代表取締役会長CEOの中野晴啓さんと、『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』(ダイヤモンド社)の著者で、長期厳選投資を専門とする農林中金バリューインベスメンツ常務取締役兼最高投資責任者の奥野一成さんのお2人に、資産運用とこれからのビジネスパーソンに必要な思考法をテーマに対談していただきました(対談実施日:2022年11月25日)。全6回の2回目をお届けします。(構成/北野啓太郎、撮影/石郷友仁)。
ホテル1泊、実質1800円! これはダメ
奥野一成(以下、奥野) 国が国民にお金を撒くということに関しては、新型コロナウイルスの経済対策として確かにどの国もやりました。でも、アメリカはちょっと反省モードに入っていて、実際には、撒き過ぎたお金を回収に入るため金利を上げています。でも日本はいまだに、旅行者に対してお金を撒くわけですよ。
中野晴啓(以下、中野) 安くなったんですよね、出張すると。
奥野 いやもう、おかしいですよ。このあいだ広島に行ったんです。1泊8000円ほどのビジネスホテルに泊まったら、4割安くなった。その上、現地で使えるクーポン券3000円分がもらえたんです。だから実質1800円で泊まれたんですよ(笑)
セゾン投信代表取締役会長CEO、一般社団法人投資信託協会副会長、公益財団法人セゾン文化財団理事
1987年明治大学商学部卒業、クレディセゾン入社。2006年セゾン投信を設立。2020年6月より現職。つみたてで、コツコツと資産をふやす長期投資を提言。国際分散型投資信託2本を15年以上運用し、個人の長期資産形成を支えている。客観的な定量評価を行う「R&Iファンド大賞」最優秀ファンド賞を9年連続受賞。口座開設数16万人、預かり資産5000億円を突破。主な著書に『最新版 投資信託はこの9本から選びなさい』『投資信託はこうして買いなさい』『最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい』(以上、ダイヤモンド社)他多数。
セゾン投信株式会社:https://www.saison-am.co.jp/
中野 これはどういう国ですか!? と思えますよね。
奥野 あれはね、ダメです。何がダメかと言うと、結局お客の顔が見えなくなるんですよ。「自分にお金を払ってくれているのは一体誰か?」ということを認識しなくなるんですね。国がお金を撒いてくれているという状態になると、競争しなくなるし、お客に対する付加価値をつけていくことを考えなくなってしまう。
中野 そうですね。
奥野 僕はいつも「お金はありがとうの対価」だと言っているのですが、お客を見ないでお金が入ってくるというのは、本来あるべきビジネスの姿ではありません。あなたが働いているかどうかは、問題じゃないんですよ。「働いてお客さんに付加価値をつけたら、その部分のいくらかが返ってくる」というのが、本来的なお金の源泉。国がお金を撒いてくれていることに慣れてしまうと、どんどん落ちぶれてしまうんですよね。
中野 当然そうですね。子どもから「あれが欲しい」と言われるがまま買い与える教育が良いのかどうかという状態に近い。まさに日本の将来を見据えられていなくて、特に第三次産業・サービス業はその状態になりかねない。思考停止に導くのがすごく楽で、コントロールしやすい国民とも言えますね。
奥野 国がどんなに投資をしようが、乗数効果(投資や政府支出などの経済量の変化が波及的に変化をもたらし、もとの何倍かの変化を生み出す効果)がないものをやっていたら無駄ですよね。それをしたって何も生まない。
日本人は、なぜ何でも
国のせいにしてしまうのか?
中野 西九州新幹線とおなじ状態ですよ。マイナスの価値しか残らないと懸念されていても、一瞬のキャッシュフローに目がくらんで建設する。
投資信託「おおぶね」ファンドマネージャー、農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(以上、ダイヤモンド社)など。
投資信託「おおぶね」:https://www.nvic.co.jp/obune-series-lp202208
農林中金バリューインベストメンツ株式会社:https://www.nvic.co.jp/
Twitter:https://twitter.com/okunokazushige
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奥野 うーん、なかなか難しいですよね。昔の「橋を造れば必ず乗数効果があった時代」というのは、人口が増えている中だったので、どんな田舎であっても橋を造れば、そこに人が集まって産業が興った。それはものすごい乗数効果です。昔の所得倍増計画の時代ですね。
中野 50年前の話ですね、それは。
奥野 発展途上国だった頃は、何をやってもおそらく乗数効果はあったんですよ。
中野 ありていに言えば、あまり頭を振り絞らなくても良かったんですね。
奥野 そういうことです。今は物があふれていて、人口も減ってきている中なので、そういう時代ではなくなった。「どうすればお客に対してもっと付加価値をつけられるか?」を考え抜いた人だけが、富を手に入れることができる時代なのでしょう。
中野 要するに、「頑張った人が結果を出して、頑張らない人は文句を言ったってダメよ」というのが本来の健全な資本主義社会。日本の近代の歴史を振り返ると、敗戦から始まっているので、「日本の民主主義は、アメリカから押し付けられた受け身の民主主義。だから民主主義の価値がみんな分かっていない」とよく言われますね。
結果的に、朝鮮動乱が起こり、アメリカの日本に対する統治の気持ちが変わり、日本の経済が成長した。自分たちで国の構造を考え抜いて、自分たちの頭で作りあげたものではなく、周りの環境がジャパン・アズ・ナンバーワンに突き上げてくれたといっても過言ではないです。それを主導してきたのが霞ヶ関で、国民は「霞ヶ関の言うことを聞いていれば幸せになれるんだな」というままDNAが積み上がってきた。前回、奥野さんが言ったように、だから、政治が悪い、国が悪い……と。
奥野 結局、かつての反動が起こっている、ということなのかもしれないですね。
中野 ええ。民主主義が確立していない、未熟なまま成熟した不思議な社会かもしれないですね。だから、それ自体も真摯に自己反省して、僕ら自身がもっとレベルの高い大人になろう、国づくりからやり直すべきだ、と言っているんですけどね。
円安でも、円高でも、
日本がやるべきことは変わらない
ベストセラーとなった『ビジネスエリートになるための教養としての投資』の続編。「投資家の思考法」のエッセンスは、ビジネスの本質を見抜き、付加価値を上げるためのアプローチを見つけること。投資家のみならず、全ビジネスパーソンが、ビジネスエリートになるために持つべき重要な思考の武器である。
奥野 そうですね。資産防衛・資産形成についても、あまり国に頼らない、企業に頼らない、何かに頼らない。もちろん100%頼りませんというわけではなく、そういう精神をもって自分の人生をつくっていくのが大事だと考えています。自分の人生をつくるために投資や自己投資をしていく世の中になっていくのが成熟社会なので。だから、円安だろうが、円高だろうが、やらなきゃいけないことはあまり変わらないんですね。
ただ、国を頼っていると長期的な円安に向かうことはあっても、僕はいますぐ1ドル220円になるとは全く思わない。この国はそんなにダメな国ではないですから。
中野 そこまでヤワではないですね。
奥野 はい、そこまでヤワじゃない。観光資産も含めて、こんな良い国はない。だから海外の方が、殺到するわけですよね。1ドル150円だったらバーゲンセール状態なので、海外からいろんな方がいらっしゃる。今、中国の方がお見えにならないので、まだそれほど殺到している感はないですけど、中国だってどこかのタイミングで必ずまた普通に戻してきますから。
そうすると殺到して、いろいろなものが買われていく。海外の方が日本で消費しようと思ったら、外貨を円に替えなきゃいけない。だから、円安がどこまでも行かないというのはそういうことです。売れる物がまだこの国にある間は。
中野 価値が残っているから、売れるわけですよね。
奥野 ただ、白物家電や半導体などは海外に出て行ってしまいましたが、この国には観光資源がものすごくありますから。
中野 奥野さんがおっしゃるとおり、価値はいろいろなところで証明することができるんですね。もちろん、対外純資産の残高だってまだ世界で一番多い国ですし、ここが生み出すお金が経常収支をきちんとサポートしてくれていますから。無限に為替が暴落する状態でないことは断言できるでしょう。
一方で、一気に150円という円安になってくれたのは、目が覚めるという部分を含めて産業界にも好機ですよね。
奥野 それはそうですね。
中野 円が弱かった時代、どういうビジネスを一生懸命やって、自分たちで外貨を稼ぐよう努力をしたか。それをもう一度思い出せる。要するに、外に売れる良いものを作れば、相対的に安く売れるだけの環境を持っているので、再び輸出でしっかりと稼げる国になれるかもしれないですからね。
つづく