マイクロソフト「垂直」統合、米当局には正念場マイクロソフトは買収によって、ソニーをはじめとするライバルのシステムでプレーできるアクティビジョンのコンテンツの質を下げたり、コンテンツを差し止めたりする動機と能力を手にするとFTCは主張(写真は首都ワシントンのFTC本部)
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 米連邦取引委員会(FTC)はリナ・カーン委員長の下、750億ドル(約10兆2400億円)でアクティビジョン・ブリザードを買収するマイクロソフトの計画に異議を申し立てる上で、拡張的な法理論を主張している。だが、近年の裁判でこうした主張は受け入れられてこなかった。

 買収が成立すれば、マイクロソフトのソフトウエアやデバイス、クラウドコンピューティングの事業と、アクティビジョンが所有する人気ビデオゲームが統合される。今回の訴訟の標的はこのいわゆる垂直統合だ。マイクロソフトは買収によって、ソニーをはじめとするライバルのシステムでプレーできるアクティビジョンのコンテンツの質を下げたり、コンテンツを差し止めたりする動機と能力を手にするとFTCは主張している。ソニーはマイクロソフトにとって、ゲーム機やその他のプラットフォームにおいて最大のライバルだ。

 通常の反トラスト(独占禁止)訴訟で政府が異議を申し立てるのは直接の競争関係にあるライバル同士が合併する水平統合だ。このような場合では市場から競争相手が排除されるため、集中が進む可能性がある。これは、価格上昇など将来的に悪影響が生じるという推論を導き出すのに利用できる要因となる。

 政府がこれまで垂直統合の裁判でなかなか勝利できないのは、将来的に生じ得る悪影響を主張するのが容易でなく、市場原理がどのように働くかについて複雑な考察が必要になるからだ。連邦地裁のリチャード・レオン判事は2018年、司法省がAT&Tによるタイム・ワーナーの垂直統合計画に異議を申し立てた歴史的かつ敗訴した訴訟で、政府が主に展開した法理論の一つを(あえて複雑なからくり装置を考案したことで知られる米漫画家の)「ルーブ・ゴールドバーグ的仕掛け」と評した。

 レオン判事は172ページにわたる痛烈な意見書の中で、垂直統合によって企業は不当に有利な立場に立つ可能性があるという政府の「一般的な」主張は「法廷で疑問に答えるには程遠い」とした。

WSJのCEOカウンシルに参加したリナ・カーンFTC委員長(ワシントンで6日)WSJのCEOカウンシルに参加したリナ・カーンFTC委員長(ワシントンで6日)
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