――筆者のメロディー・ホブソン氏はアリエル・インベストメンツの共同最高経営責任者(CEO)兼社長、ジョン・W・ロジャース・ジュニア氏は同社の創業者で共同CEO兼最高投資責任者(CIO)
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2022年の市場はドラマに事欠かない1年だった。深刻な痛みを伴い、悲観論がまん延し、不確実性も渦巻いている。株式は新型コロナウイルス禍後の熱狂に支えられ驚異的なリターンを上げたが、弱気相場が定着するにつれ、その上昇分を吐き出していった。
このドラマは起こるべくして起きたと言える。コロナ禍の長期化、インフレの進行、ウクライナに対する攻撃の激化、迫り来るエネルギー危機、中国の「鎖国」など、世界が不安定な状況に支配されているからだ。おのずと解消されていくと思われていたサプライチェーン(供給網)の目詰まりはまだ続いている。米国では、消費者の購買意欲は旺盛なままだが、物価や高騰する賃金の抑制に向けた利上げがあまり効いていないため、消費者心理は悪化している。企業の収益見通しは、足元の経済的現実を反映して下方修正され始めている。
一方、米国の経営者の多くは、40年間にわたり抑えられてきたインフレに対応した経験がほとんどない。FRBにとってもこれは初めての挑戦である。FRBは政策対応を強化しているが、インフレをその場しのぎの策で抑えることは難しい。その上、FRBはマネーサプライ(資金供給量)の管理に関して「完璧な着陸」を実践したことがあまりない。
それでも、まだ望みはある。楽観視できる理由があるのだ。 その筆頭は、悪材料がほぼ出尽くし、すでに株式市場に織り込まれた可能性があるということである。今後、さらに多くの問題が起き、市場が一段安となることはあり得る。しかし、1987年の株価大暴落、IT(情報技術)バブルの崩壊、世界金融危機、米国債の格下げ、コロナ株安といったトラウマ的な環境下で40年にわたり忍耐強く投資を続けた結果、いくつかの明確なパターンが見えてきた。弱気相場には、警告ではなく買い場のシグナルとなり得る共通のテーマがある。
一つ目は「全てが一斉に悪化する」というものだ。弱気相場で上がるのは相関関係だけ、という格言がある。その点、ロシアの侵略戦争により供給が妨げられているエネルギーは、今年のS&P500種指数の業種別リターンで唯一プラスとなっている。一方、大型株と小型株は、米国および国際的な株価指数と同様、苦戦を強いられている。厳しい環境下では債券価格の方が持ちこたえるという一般的な見方に反し、債券は金利上昇で大打撃を受けている。信じがたいことに、10年物の米国債のパフォーマンスは過去234年間で最悪となっている。その結果、株式6割・債券4割という退職ポートフォリオの伝統的な資産配分比率は、値下がり時のヘッジがほとんど機能していない。恐らく、シェークスピアの「ハムレット」に出てくるクローディアスの言葉がそれを最もうまく言い表している。「悲しみは単独ではなく大挙してやってくる」