宗教を通して考えると、いま世界で起こっている様々な出来事がこれまでと違った形で見えてくる。文庫新刊書『世界の宗教地図 わかる!読み方』からの一部抜粋で、宗教と世界情勢の密接な関係を、わかりやすく解説していく。
13の州で中絶が禁止、
規制を強める州も続々
米国では人工妊娠中絶の是非が、国や州の選挙に大きく影響する重要テーマとなっている。その背景にあるのが、キリスト教の伝統的な価値基準を声高に訴えるキリスト教右派の存在だ。共和党の保守派と強く結びつき、中絶反対運動を展開している。
キリスト教右派は聖書に書かれたすべてを真実とし、避妊にも否定的な姿勢を示す。受精が生命の始まりという考えをとるため、中絶は胎児の殺人と断じている。これはカトリックの信仰と相通ずるため、カトリック保守派も連携している。
にわかには信じがたいことだが、中絶クリニックへの襲撃、爆破などを行ったり、中絶を望む女性と医療関係者の殺傷事件を繰り返したりする狂信的グループもあるほどだ。
そうしたなか、2022年6月に画期的な判決が下された。米連邦最高裁判所が中絶を合憲とした約50年前の判決を覆したのである。
もともとこの判決は、中絶の選択がプライバシー権に含まれるとして、中絶の権利を保障する基盤とされていたものだ。それが覆されたことにより中絶を禁じる州法が違憲とならなくなり、すでに13の州で中絶は禁止、規制を強める州も続々と出てきている。