絶体絶命のピンチも
奇跡が起きた?

 私は疲労でパートナーをとがめる気にもなれず、ただただ無言で、この調査終わったな……とマンションの入り口をボーっと眺めていました。調査対象の動きをつかめず、何も証拠が撮れていない。調査費用が後払いの場合、成果が得られなかったときは支払いが履行されないこともたまにあるのです。いくら契約時にそういったケースがあり得ることを納得してもらっていても、依頼者が払わないと決めた時には泣き寝入りするしかないのが、探偵のあるあるです。

 私は調査費用の支払い不履行を覚悟しましたが、私が依頼したパートナーには支払わないわけにはいきません。疲労で回りにくくなった頭の中で概算費用を計算していると、またパートナーが叫びました。「片岡さん! やりました! 出てくる様子が撮れてます!!!」

 ファストフード店内でも車の中でも、見落とした際の保険のためカメラを固定して撮影をし続けていました。パートナーが巻き戻して見てみると、雪乃さんは15分ほど前にマンションから男性と腕を組んで出てきて、自転車を押しながら男性と自宅方面に歩いていったのです。私も「やったー!!!」と叫びました。

 そしてまだ間に合うかもしれないと、車で室岡さんの自宅に向かいました。自宅前に到着したその時、雪乃さんと男性は大胆にも抱き合って熱烈なキスを交わしていたのです。万が一を想定しカメラを回しっぱなしにしていたのが幸いしました。

 数日間の苦労が報われてとてもうれしく、充実感がありましたが、こんな経験は二度としたくないと強く、強く思いました。依頼者に報告して帰宅すると倒れ込むようにまるまる1日寝ました。

「執念が起こした奇跡」と「もう経験したくない過酷すぎる張り込み」、点と点が線になる探偵トークでした。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、一部を脚色しています。