考えがうまくまとまらない、書いてはみたもののオリジナリティがない、説明っぽくて相手にちゃんと伝わらない気がする……。こんな「言いたいことを言葉にできないモヤモヤ」はないだろうか? 自分の言葉で短く端的に伝えるための方法をまとめた『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』(坂本和加著)が2月15日に発売になる。著者は「カラダにピース。」「行くぜ、東北。」「WAON」など数々の名コピー、ネーミングを生み出しているコピーライター坂本和加氏。本書では坂本氏が20年以上のキャリアで身につけた、短く深い言葉をつくる「ひとこと化」の思考法、表現法を余すところなく紹介する。ネーミングやキャッチコピーだけでなく、SNSや文書作成、プレゼンといったすべての書くことすべてに応用できる本書。今回は本書の発売を記念して特別に一部内容を再編集、抜粋して紹介する。
「人によく思われたい」と思っていませんか?
私はこれまであちこち頭をぶつけながら仕事を進めてきました。
今はコピーを「よくしよう」とは思っても、書くことで「自分をよく見せたい」などとはみじんも思わなくなりました。
むしろ、人によく思われたい気持ちを手放すことで、とてもラクになりました。
ここでは、私がこれまで実践してきた、短く端的に表現するための「ひとこと化」のルールをお伝えします。
「ひとこと化」をスムーズにするのは、以下の3つのルールです。
[1] うまく書こうとしない
[2] たくさん書かなくていい。A4ヨコにワンワード
[3] 出たのは気になる言葉、それを楽しむ
ひとつずつ見ていきましょう。
うまく書こうとしない
ルール1「うまく書こうとしない」は最重要です。
うまく見せよう、書こう、とするほど、「どうやって?」と思うので、手は止まってしまうものです。
そして、そのうまく見せよう、は必ず相手に見抜かれてしまいます。
「相手の評価を気にせず書いてみましたが、とても普通になってしまいました」。こんな声も聞こえてきそうです。
むしろ私は「なぜ普通でいけないのですか?」と、聞いてみたい。
ほんとうに伝えたいこと、言いたいことの根っこを「正しく」言葉化できている、そのひとことが「もっとも言いたいこと」なのであれば、なんの問題もないのではないでしょうか。
「その普通さ」には、「真面目さ」「実直さ」「真摯な姿勢」も見つけられます。まずはしっかり伝達できることが大切です。
あとは、自分から出てきた言葉を、自分で納得して気に入ってあげるだけ。
その言葉に続けて何か文章が続くとしても、最初のひとことが腑に落ちるものであれば、あとから続く言葉もクリアにまっすぐ伝わっていきます。
包み隠さず「それが自分」なのだから、堂々としていればいい。
無理して突拍子もない表現をしてみても、かえって自分らしさから遠のいてしまうものです。
パッと見て伝わる長さで
ルール2「たくさん書かなくていい。A4ヨコにワンワード」は、コピーライターはどうやって言葉をプレゼンするのか? という話にかなり近いです。
とくに気に入った言葉をひとつかふたつ選んだら、ちょっとアナログではありますが、A4用紙に少し遠くからも見えるように、真ん中に大きめに書いてみてください。
言葉を頭の中だけではなく、目視でも「真ん中」にしてあげる。
そうしたときにどう見えるか。何を感じるか。それを知るためです。
パッと見て読み切れるか、長すぎないか、削れるところはないか、もっといい言い換えはないか、言葉が入ってくるか……いろいろなことを客観視するためです。
しばらく机の前に張り出してもいい。目につくところがいいです。
パソコンで作業するなら、文字サイズを36ポイントほどに大きくしてA4出力してみてください。
こうでなくては、はとくにありませんが、パッとわかる文字量は10文字ちょっとくらい。
少なくとも、ひといきで読み終えるひとことを目指しましょう。1行でパッと理解できる長さが理想です。歩きながら見ても意味のわかる長さです。
自分のフィルターを通した言葉に出会おう
ルール3「出たのは気になる言葉、それを楽しむ」の大事なこと。
それは、「自分から」出た言葉であるべきだということです。
ひとこと化は、何かを要約して短い文章にすることではありません。
一番言いたいことを見つけたら、「自分のフィルターを通す」。
自分のフィルターとは、「自分自身で見つけた『本質』を、自分のカラダで濾過する」こと。
自分の言葉で書く、ということです。
独立して間もないころ、小さな文章を書く仕事がありました。
どちらかというと情報整理の部類だと思い込んだ私は、言葉を文字通り整理整頓して、指定の文字数以内に収まるように書きました。でも、なかなかOKが出なかったのです。
焦った私は改訂案とともに、まったく別の新案も添えました。この新案は、私という人を介した言葉でした。
もっとわかりやすく言うなら、「私はどう思ったか」「解釈すると……」という、“私自身が”ちゃんと咀嚼(そしゃく)した内容を、自分の言葉で文章化したものでした。
すると、その新案のほうがわかりやすくていい、ということで新案で進めることになりました。
この経験によって、「言葉を商売道具にするというのは、こういうことか!」と私自身がストンと腹落ちしました。
借りてきた言葉ではなく、自分の言葉で話す。
自分から出てきた言葉だから説得力が増す。いろいろ思いを巡らせて、やっぱりこれを伝えたいと思って出した言葉です。
自分の言葉には、自分自身が宿っていると思います。
(*本稿は『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』より一部抜粋、再編集したものです)
合同会社コトリ社代表
文案家(コピーライター)/クリエイティブディレクター
大学を卒業後、就職氷河期に貿易商社へ入社。幼少期から「書くことを仕事にしたい」という漠然とした思いがあり、1998年にコピーライターに転職。最初の2年は150字程度のPR文をひたすら作成していたが、まったく書けなくて徹夜の日々。「キャッチコピーらしいコピーを書きたい」という思いが芽生え、数社の広告制作会社を経て、2003年に一倉広告制作所に就職。師匠である一倉宏氏に「お前のコピーは長い」「頭で書くな」と言われながら、「ほんとうに伝えたいこと、伝えるべきことはなんなのか」を深掘りすることで、だんだんと「短く、深いコピー」が書けるようになった。2016年に独立し、現在は合同会社コトリ社代表。
本業に加えて、自身のキャリアを通して身につけた「ひとこと化」の考え方、技術はどんな人にも役立つと考え、32歳のときから、企業・学校団体向けにコピーライティング技術を用いたワークショップを行っている。本書では、その「ひとこと化」の考え方・技術を余すところなく紹介。主な仕事に、「カラダにピース。」「行くぜ、東北。」「WAON」「イット!」「健康にアイデアを」「こくご、さんすう、りか、せかい。」などがある。受賞歴に毎日広告デザイン賞最高賞ほか多数。著書に『ひとこと化──人を動かす「短く、深い言葉」のつくり方』(ダイヤモンド社)、『あしたは80パーセント晴れでしょう』(リトルモア)ほか。東京コピーライターズクラブ会員。日本ネーミング協会会員。