多様性のデザインを「言葉」によって導きだす、クリエイティブセンターの挑戦〈前編〉

モノからサービスへ、リアルからデジタルへの大潮流がビジネスのあらゆる領域を覆う中、「デザイン」の役割が広がっている。特に、業界や業種を超えたつながりを駆使して多角的に事業を展開する大企業のブランド戦略に不可欠なのが「デザイン」の視点だ。ソニーグループの歴史あるデザイン組織「クリエイティブセンター」でも、近年とりわけ活性化しているのがブランディングデザインにまつわる活動だという。注目すべきは、一般的にはビジュアル要素が強いと考えられているデザインという枠組みの中で、「言葉」を意識的に使いこなしていることだ。同センター長、石井大輔氏が、現在に至るまでの経緯と取り組みの特色を語る。

「ブランディング」がデザイン室創設の原点

 ソニーグループには大きく6つの事業領域がある。多くの人になじみ深いエレクトロニクスの他、ゲーム、音楽、映画から金融や半導体まで、その幅は広い。2022年にはモビリティの進化に貢献する新会社も設立し、さらに領域が拡大した。

 すると、難しいのがブランディングだ。個々の事業の精神を際立たせながら、シナジーを見いだし、グループ全体としてブランド価値を高めるためには何をすべきか? ソニーに限らず、多角的に事業を展開する多くの企業に共通する問いだろう。これを解く鍵は「デザイン」だ。ソニーの場合、CEO直轄のデザイン組織「クリエイティブセンター」が、積極的にここに関与し、「言語をデザインする」という手法でブランディングに挑んできた。大企業におけるインハウスデザインが果たすべき役割を考える事例として、ヒントにしていただけると幸いだ。

 まず、クリエイティブセンターの歴史を簡単に振り返っておこう。組織のルーツは、後に社長となる若き日の大賀典雄が1961年に設立した「デザイン室」。創業期からブランドを大事にしてきたソニーにとって、デザインとブランドを一元管理する部署が必要不可欠だったのだ。時代を考えればかなり先駆的な取り組みといえる。その後の事業領域の拡大とともに、デザイン室の活動は、製品やパッケージ、UIデザイン、社名やロゴのデザインが中心になっていったのだ。