「これ、どう思う?」と聞かれて、自分の言葉で返せる人・返せない人の差

ノート術やメモ術に関する書籍は数多く存在しているが、それぞれ手法は異なる。そのため、メモを活用したいと思いながらも、具体的にどんな運用をしたらよいのか悩んでしまう人も少なくないだろう。
そんな方の悩みに答えてくれるのが、日本一ノートを売る会社「コクヨ株式会社」の社員、下地寛也さんの書いた『考える人のメモの技術』(ダイヤモンド社)だ。下地さんは今まで数多くの仕事ができる人のメモをリサーチした、いわばノートのプロフェッショナルである。
本書では、2種のノートを使い分けることで、正解のない問いに対して自分らしい答えを出す力を磨ける実践的なメモ術を紹介している。今回の記事ではインプットメモについて下地さんに聞いた。(取材・構成/久保 佳那、撮影/疋田千里)

そもそも、インプットメモを書くことはなぜ大切なのか?

――の中に「仕事ができて物事をしっかり考えられる人はほぼメモ魔。ただ、メモをしっかり取っていても物事をしっかり考えられる人とは限らない」という一節がありました。両者の違いはどこにあるのでしょうか?

下地寛也(以下、下地):皆さんの周りにも、いつもノートをしっかり取っている人っていませんか。会議やセミナーなどに参加すると、その内容を完璧に再現できるほどのクオリティーでメモが取れる人です。

 ただ、その人が必ずしも仕事ができるかと言えばそうではない。

 ところがやはり仕事ができる人の話を聞いてみると、全ての内容をメモするわけではありませんが、日頃からメモをすることを重視している人がほとんどだと思います。

 この両者の違いは何なのかというのがポイントです。

 仕事ができる人は、インプットした情報をアウトプットにしっかり活用できている。ここが決定的に違う点だと思います。

 そのために何をしているかというと、「自分に必要だと思うことを選んでメモしている」ことと、メモした内容に「気づきを加えて、情報を使う一歩手前までイメージしている」こと。この2つがポイントのように思うんです。

 特に、後者の気づきでは「なぜ、この情報が面白いと思ったのか」を言語化しておくことが大切です。そうすると、いつでも必要な時に情報を引き出せます。

 よく、アイデアがドンドン出てくる人のことを「引き出しが多い」と言いますよね。この引き出しを増やせる人というのは、自分が大切と思った情報だけをメモして、それに気づきを加えて、自分の知識の血肉化ができている人だと思うんです。

――インプットメモを続けていくと、具体的にどんなメリットがありますか?

下地:インプットメモは、企画を考えるときのアウトプットメモに役立つのはもちろん、自分の意見をちゃんと言えるようになる効果もあります。

 インプットした情報に自分の考えを乗せて話せるようになるので、コメント力が高まるんです。

 例えば、トラブルが起こったときに、コメント力がないと「そのトラブルって、やばいですね」みたいな無意味な感想しか返せません。

 でも、インプットメモによって情報収集や振り返りができていると、「このトラブルはよくあるパターンですね。以前似たようなことが起きたときは、こう解決したので参考になるかもしれません」と返せる。

 これもある意味で小さいアウトプットです。

 あと他に、メモしてほしいのは失敗したこと、不満に思ったこと等の「不」の情報です。これらは、課題を見つけるときの参考になるわけです。

――不の情報ですか。それは、どう活用するのでしょう?

下地:例えば、以前、ファミリーレストランに1人で行ったときに、ガラガラに空いている時間にもかかわらず狭い席に案内されたことがありました。アルバイトはマニュアル通りの対応をしたのだと思います。

 ただ、それだけだと単なる不満ですが、メモには「マニュアルと気づかいのバランスは難しい」と気づきを書きました。

 しばらくして、総務や人事などのスタッフ部門の改善ミーティングがあったときのことです。「社員向けの窓口対応の融通が利かない」というアンケートの不満が沢山届きました。

 なるほど、決定権のあるマネジャーだとその場の判断で柔軟に対応ができる。しかし若いスタッフだと自分で判断できず「マニュアルで決まっていますので」としか言えないのも当たり前です。

 結果、「マニュアルと柔軟な対応のバランスは、現場でどう判断すればいいのか」という問題提起を、過去の「不満」のメモを参考にすることができました。

 こういったことが、インプットメモをアウトプットに活かすという基本的なやり方になるわけです。

「何を書けばいいのかわからない」を無くすためにすること

――インプットメモを書く意義はわかりました。ただ、全てをメモするのではなく、「情報を選ぶ」というのが難しそうですね。

下地:はい。情報の取捨選択はけっこう難しいでしょう。経験を積むと情報の優劣を判断できるようになりますが、若いときほど全部が大事な情報に聞こえちゃうから迷うんですよね。

 基本的には、自分が何を知りたいんだろうという風に、「問い」を明確にしておくのがいいと思います。

 例えば、セミナーに参加するとすれば、このセミナーで知りたいことは何だろう? と事前に考えておく。すると、メモするポイントが少しクリアになってきます。

――あと、「インプットメモのはじめに、メモの基準、つまり何をメモするかテーマや基準を書いておくといい」と書籍の中にありました。

下地:そうですね。何をメモするのか迷わないためにも、自分なりの「メモの基準」を決めておくのは大切です。ノートの1ページ目に書いて、いつでも確認できるようするのがおすすめです。

 仕事に関することはもちろん、プライベートで関心のあることでもいいと思います。

 おススメの方法は「短期的な仕事で活用したいテーマ」「中期的なキャリアアップのために身につけたいテーマ」「日頃から興味関心がある趣味などのテーマ」をそれぞれ3~5つ程度拾い上げておくといいでしょう。

 仕事やキャリアでいうと、「マーケティングについてはメモしよう」とか、「営業トークに使えそうな言い回しがあればメモしよう」といった感じです。

 趣味の場合は、「映画の鑑賞メモをつけてみよう」とか、「ワインが好きだからその知識をメモして身につけよう」とか。仕事だけでなく、自分の興味関心をメモすることが、自分らしさをつくっていく土台になるはずです。

――例えば若手の方などで、明確に自分の関心やテーマを絞れてない場合もあるかと思います。悩んだ場合は、どうしたらいいでしょうか?

下地:無理にたくさんのテーマをひねり出す必要はありません。

 仕事を中心にして絞り込むのでもいいでしょう。若手の頃は仕事をちゃんと覚えるので手一杯ですし、無理にテーマを出しても、本当に興味がないと結局忘れちゃうんですよね。

 仕事に慣れて自分に足りないところがわかってくると、「中長期的にこういうことを学びたい」と思うようなテーマが見つかると思います。

 たとえ、設定するテーマが1つだったとしても、ちゃんと身につけようと思ったら3ヵ月から半年くらいはかかると思います。テーマ選びは自分の感性に任せてみましょう。

――テーマが絞れていなくても、メモを取ることで、「私は意外とこんなことに興味があったんだ」と気づくこともできそうですね。

下地:もちろん、メモの基準にないテーマでも、これは面白いと思ったらメモするべきです。そうしておくと次第に、自分に足りない部分が見えてきます。

 僕自身、元々は空間のインテリアデザインやオフィスレイアウトの設計をしていたんですね。

 でも、お客さんと接するうちに空間づくりの寸法や家具の素材の知識はあるけど、コミュニケーションの取り方やマネジメントについては、自分の知識が足りないと思うようになったんです。

 こんな風に足りないことに気づくと、その先にアンテナを伸ばしたいと思うんですよね。全然興味がなかった哲学や歴史にもだんだん興味が湧くようになってきました。

 だから、無理にテーマを作って美術館に行ったり、映画に行ってみたりしなくても大丈夫です。自分のタイミングで、自然と気になったものに手を出せばいいと思います。

――「これは面白い情報だ」というものが、なかなか目に留まらないことはありませんか。

下地:たしかに、自分が全く知らなかった、驚いたという情報に接する機会はそれほど多くはないでしょう。

 実は本を書くときにカットした部分なのですが、メモする情報は「新しい発見」「自説の補強」「気になる異論」の3つあると思います。

「新しい発見」の情報ばかり集められればいいのですが、そうもいきません。結構、大切なのが「自説の補強」の情報です。

 これは、自分が以前から考えていたこと、理解していたことに対して著名な人も同じことを言っている、こういう事例や統計がある、などの情報です。

――例えば、どういうことでしょう?

下地:例えば、職場の評価に文句を言う人がいて、その状態を上層部が問題視しているとします。

 しかし、私が以前メモした、アデコさん調べのある調査によれば、人事評価の公平性に不満がある人はそもそも、62.3%いるそうです。不満の理由は、「評価基準が不明確」だったり、「評価者にばらつきがある」ということ。

 私は、そもそも職場の評価に不満を持つ人は多いだろうなと思っていましたが、その考えを補強するこの情報は説得力を増すのに有効だと考え、メモしました。

 そうすることで、人事部や上層部の人が議論しているときに「評価に文句を言う人はうちの会社だけに多いのではなく、評価とはそもそもそういうものだ」と自信を持って言えるようになります

 こうした補強情報を伝えると、うまくその場が収まったりします。

――感覚的だったものを、言語化しやすくなりますね。

下地:誰か別の人も言っていたという事実は強いですよね。僕がメモしている情報の8割くらいは補強情報かもしれないです。

 ただ、確証バイアスと言って、自分に都合のいい情報ばかりを拾ってしまう側面もあるので、注意が必要です。

 なので、「気になる異論」の情報もメモするといいでしょう。これは、自分とは違う意見だが、なんとなく気になる、引っかかる情報です。

 こういった賛成できない情報でも、面白いと感じたらメモして、理解しようとすることで考える視野が広くなるはずです。

「気づき」がアウトプットにつながる変換装置になる

――情報の取捨選択以外にも、「メモに気づきを加える」ということが難しい気がします。その重要性とコツをもう少し教えてください。

下地:はい。メモをただ取るだけでは、ただの情報コレクターになってしまいがちです。

 セミナーで講演をした後に「資料のコピーをください」という方がよくいます。それって、とりあえず情報を手に入れて安心したいだけで、実際は資料をほとんど見ない人が多いんですよね。それと同じ状態です。

 ただのメモで終わらせないためには、「気づき」を加えることが大切です。

 例えば、先日ネットのある記事に面白い情報がありメモしました。

「時間は動作の影である」という言葉がトヨタにはあるという情報です。これだけだと、トヨタさんのノウハウの1つという単なる雑学になってしまいます。

 私は、これに「応用が利く言葉、信頼は約束の影である、売上は提案の影である」、「残業時間を減らすなら行動を見直す」という気づきを加えました。

 そうすると、たとえば「売上拡大」とか「残業削減」という施策を考えるときに、無理やり数字をつくるとか、時間を圧縮するというより、本質的な行動を見直さなければ意味がないということに視点を持ってくることができます。

「この情報の、何がいいと自分は思ったんだろう?」と、いつも考える癖をつけることが大事です。意味づけを自分に問うことで、その情報を使う準備ができます。

――「気づき」を加えるだけで、メモの意味合いが変わりますね。インプットメモはどのように見返しますか。

下地:私は、セミナーの準備や誰かにアドバイスするときに、よく見返しています。

 なにか相談されたときに「僕もそういうことがあったな」と思ったら、その時のメモを見返します。誰かに話すときの説得力が上がるんですよね。

 定期的に見返す時間をつくっても、結局忘れてしまうことが多いと思います。インプットメモ用のノートを常に持ち歩き、何か雑談ネタになるものはないかなと、暇なときにパラパラ見返すくらいがいいのではないかと思います。

――過去に書いたインプットメモは、どの程度活用できていますか?

下地実際に使える情報はメモした中の5%くらいではないでしょうか。

「あの話、どこかに書いてあったな」って探しにいくことはありますが、やはり見つからないこともありますよ。

 少し前のインプットメモを、忘れたころにパラパラ見ていると1周まわって企画のネタになったりすることもありますね。だからメモをそのまま使えるというほど、打率はよくありません。

 もったいない気がしますけど、時効というか、もう旬が過ぎたものと割り切っていいでしょう。ある意味、すでに自分の知識の中に肥やしとなって取り込まれていますから。

 ただ、筋トレして体力をつけるように、自分の情報感度に引っかかったものをメモする習慣を持つ。それで考える力が磨かれるのだと思います。

【大好評連載】
第1回 【コクヨのトップ社員が答える】ノートは1冊にまとめるべきか? キレイに書くべきか?
第2回 「スマホメモ」を、今すぐ「手書きメモ」に変えたほうがいい4つの理由

「これ、どう思う?」と聞かれて、自分の言葉で返せる人・返せない人の差下地寛也(しもじ・かんや)
コクヨ株式会社 ワークスタイルコンサルタント
エスケイブレイン 代表
1969年神戸市生まれ。1992年文房具・オフィス家具メーカーのコクヨに入社。オフィス設計者になるが顧客対応が下手すぎて、上司や営業に怒られる日々が続く。常に辞めたいと思いながら働いていたが、5年後、コクヨがフリーアドレスを導入したことをきっかけに「働き方とオフィスのあり方」を提案する業務に従事し、ワークスタイルを調査、研究する面白さに取りつかれる。以来、行動観察、デザイン思考、ロジカルシンキング、リーダーシップなど、働く人の創造性と生産性を向上させるスキルやマインドの研究を続け、これまでにビジネス書を当書籍を含め10冊出版。常にメモを取りながら、自由で豊かな働き方を実践するためのアウトプットを続けている。
コクヨにおいても、顧客向け研修サービス、働き方改革コンサルティングサービスの企画など数多くのプロジェクトマネジメント業務に従事。未来の働き方を研究するワークスタイル研究所の所長、ファニチャー事業部の企画・販促・提案を統括する提案マーケティング部の部長などを経て、現在はコーポレートコミュニケーション室室長としてコクヨグループのブランド戦略や組織風土改革の推進に取り組んでいる。同時に新しい働き方を模索して複業ワーカー(エスケイブレイン代表)としてのビジネススキルに関するセミナーや講演、YouTube動画配信などの活動も積極的に行っている。
「これ、どう思う?」と聞かれて、自分の言葉で返せる人・返せない人の差