グローバル化が進む現代社会において、言葉も文化も異なる人とのコミュニケーションに苦労した経験は誰しもあるだろう。書籍『新時代の話す力 君の声を自分らしく生きる武器にする』の著者でもあり、米国企業での勤務経験もある、音声プラットフォームVoicyの代表・緒方憲太郎氏に、英会話や海外で活きる「話し方」について話を聞きました。日本と海外における「話す」ことの違いは何か。私たちは「話し方」をどのようにアップデートできるのでしょうか。(本記事は、Voicy上で公開された「Voicy News Brief」のインタビュー内容を記事化しました。構成/谷本明夢)

英語力ほぼゼロでも、海外で人気者になるたった1つの方法とは?『新時代の話す力』を書いたVoicy代表の緒方憲太郎さん

――インタビューの前編(英語力ほぼゼロでも、英語を話す相手と会話が盛り上がるたった1つの方法」)では、たとえ英語力が低くても英語を話す相手と会話を盛り上げる方法について教えてもらいました。自分に話したいことがしっかりあれば、冠詞の「a」を「the」と間違えようが、三人称単数現在形の「s」が抜けていようが、相手は気にならない、というわけですね。

緒方憲太郎さん(以下、緒方) その通りです。それなのに日本人は、「まず文法を学ぶ」「単語力を増やす」という努力ばかりしています。繰り返しますが、コミュニケーションの一番の目的は人間関係の構築です。それが、仕事やコミュニティで、高いパフォーマンスを生み出すことになるわけですから。

 そんな中で、まずは文法や単語を学ぶというのは、サッカーで試合に勝つことが目的なのに、試合にも出ずに、きれいなパスをひたすら一人で練習しているようなものです。実際の試合では、きれいなパスよりも持久力やとっさの判断力の方が求められるシーンが多いかもしれない。「英語のコミュニケーション力を高めたい」という人の、努力の方向性が違うように思うんです。

――確かに、リアルなコミュニケーションでは、言葉の正確さより、相手に伝えたい思いがあるかとか、相手が「もっとこの人と話したい」と思うかどうかの方が大事ですよね。

緒方 コミュニケーションで一番大切なのは「ユーザーエクスペリエンス」です。受け手が自分のメッセージをどう感じるか、ということがポイントなんです。受け手が最高に気持ちよくなれる接点を作ること。その手段の一つが言語である、というだけで、言語そのものがコミュニケーションにおける一番大切な部分ではないんです。

 大切なのは、コミュニケーションをしているときの表情や雰囲気の作り方を含めた「場作り」の方です。きれいにうまく話すというのは、その一部にすぎません。

――採用面接でも、人事担当者は相手の話している内容はあまり聞いていなくて、見た目や話し方など、態度の方を見られている、という話も聞きます。

緒方 みなさん、自分のことを分かってもらいたくて一生懸命話すわけです。でも「私は誠実です」と流暢な日本語で話している人を見て、そのまま相手を誠実な人だと思いますか。決してそうではないはずです。つまり、きれいにうまく話すことを目的にする意味はないです。きれいにうまく話したからといって、相手に通じるわけじゃないわけですから。

 では、どうしたら自分の気持ちを相手に伝えられるのか。自分が相手のことを好きだとか、この仕事を任せたいという思いを、どのように伝えればいいんでしょうか。

 プロダクトアウト的に「思いを口にすれば伝わるはずだ」と考えている人は、実は多いんです。当然ですが、そんなわけはありません。そうではなくて、「相手はどう感じるのか」というユーザーエクスペリエンスを起点にした発想でどうすればいいのかを考えること。受け手側の目線でコミュニケーションする大切さを、もっと伝えていきたいですね。

海外での「話す力」
第一歩は「聞く力」から

――もし今、緒方さんがもう一度海外に行くことになったとしたら、どんな「話す力」が必要だと思いますか。

緒方 一番に必要なのは「聞く力」、次に「場を作る力」だと思います。まず、にこやかに、しっかり頷いて、相手の言うことに反応する。アメリカ人は、バーなどで飲むとき、みんなお互いに、人の話を聞いていないんです。とにかくしゃべり倒している。だから聞き役に回って「いいね」とか相槌を打っているだけで、すぐに「お前はいいやつだな!」と打ち解けてくれます。

 こうして信頼を得てから、「ちょっと今、聞き取れなかったから、もう少しゆっくり話してほしい」と伝えると、「お前には理解してもらいたいから」とゆっくり話してくれるようになります。そうなると、すごく英語の勉強になると思います。

――まずは「聞く力」が大切だ、と。

緒方 その上で、聞き手にストレスになる部分をなくすための努力をすると思います。これは「話す力」の部分ですね。

 例えば、英語を話すとき、やたらと「アー」とか「エー」と言ってしまう人、多いですよ。とりあえず「You know.」ばかり言っていたり、聞き取れなかったときに「I don’t know.」と会話を流してしまったり。

 人によって、話し方の癖があります。普段、気づいていない自分の癖を知るには、自分が話している声を録音して聞いてみるのがオススメです。聞き手が気になるような、ちょっとした癖を減らすだけでも、話し方は大分、変わりますよ。

――自分の話し方の癖は、聞いてみないと分からないですよね。

緒方 みなさん、毎朝鏡を見て、自分の顔色や髪型をチェックしてから出かけるのに、自分の話し方については全然チェックしていませんよね。自分の声を聞くのは、初めは居心地が悪く感じるかもしれません。でも慣れてくると、どこをどうすれば良くなるかが分かるようになります。

 細かい文法を覚える前に、「どうしたら相手に喜んでもらえるか」と考えたり、「相手がストレスを感じない話し方」を模索した方が、海外でのコミュニケーションは早く上達するはずです。まずはコミュニケーション力を上げて、それから英語力を高めていってはどうでしょうか。