グローバル化が進む現代社会において、言葉も文化も異なる人とのコミュニケーションに苦労した経験は誰しもあるだろう。書籍『新時代の話す力 君の声を自分らしく生きる武器にする』の著者でもあり、米国企業での勤務経験もある、音声プラットフォームVoicyの代表・緒方憲太郎氏に、英会話や海外で活きる「話し方」について話を聞きました。日本と海外における「話す」ことの違いは何か。私たちは「話し方」をどのようにアップデートできるのでしょうか。(本記事は、Voicy上で公開された「Voicy News Brief」のインタビュー内容を記事化しました。構成/谷本明夢)
日本とアメリカのコミュニケーション
まずは「目的」が違うことを理解しよう
――緒方さんは以前、アメリカで働かれていたそうですね。当時、英語はどのくらい話せていたのでしょうか。
緒方憲太郎さん(以下、緒方) 僕は、アメリカで働いている日本人の中でも、特に英語力のない人間だったと思います。当時、TOEICのスコアは990点満点中415点でしたから。その英語力でネイティブと一緒に働くというのは、毎日が地獄のような大変さです。
当時は英語がまったく聞き取れなかったので、あとで聞き直すために同僚や上司との会話を1日中録音していました。仕事が終わると、その録音を聞き直して、なんとか頼まれたタスクを翌朝までに仕上げる、という毎日です。ドキュメント作成も遅いし、仕事もできない。そんな状況を生き延びることができたのは、今回、『新時代の話す力』にもまとめた、「話す力」のおかげだと思っています。
「話す力」というと、上手に話す方法が書いてあると思いますよね。そうではなく、「うまく話せなくても、やれることはいっぱいあるよね」ということを伝えています。
――日本と海外で、求められるトークスキルは違うのでしょうか。
緒方 日本では「要件をちゃんと伝えること」が重視されますが、アメリカでは「人間関係をしっかり構築すること」が話す目的になっています。「人間関係を構築する」とは、自分が相手を好きになり、相手にも自分を好きになってもらうということです。彼らは、そのためにコミュニケーションをしているんです。
日本だと、ほめられても最初は「いや、そんなことないです」なんて謙遜して、ほめ言葉を素直に受け取らない人が多いですよね。それは2~3回会って、少しずつ信頼関係を構築していくことを前提としたコミュニケーションだからです。
一方アメリカでは、初めて会ってたった5分のコミュニケーションで、どれだけ相手を好きになれるかがすごく重要です。相手におもしろい人間だと思ってもらえないと、人間関係もそれっきりになってしまいます。
――緒方さんがアメリカで働いていた当時、英語がうまく話せない状況の中で、人間関係がそれっきりにならないように、どんなことを意識していましたか。
緒方 「この人とは話していたいな」「この人と一緒にいたいな」と思わせることがすごく大事になります。何かあったときに「お前も一緒に来いよ」と言ってもらえる関係を作ること。「話す」という面では英語で魅力的に話すことができなかったんですが、「聞く」という面では、「この人はしっかり聞いてくれる人だな」「楽しそうに頷いてくれる人だな」と思わせるよう意識していました。
相手の立場で考えてみてください。大して英語も話せない外国人がいても、別に放っておいてもいいわけです。その中で、どうすれば「この人に同じ場所にいてほしいな」と思ってもらえる存在になるか。常にそれを考えていました。
「きれいにうまく話すこと」よりも
「相手はどう感じるのか」を考える
緒方 「話す」の前に、できることって、実はたくさんありますよね。例えば、相手に「あなたにお会いしたかったんです」と伝えるだけでも、相手との距離はぐっと縮まるでしょう。
それなのに、ただ語学力だけで勝負しようとか、うまく話さないと相手に理解されないと思い込んでいる人は多い。人間関係を構築することが目的のコミュニケーションにおいては、「きれいにうまく話す」ことの重要性は、全体の10%にも満たないと僕は思います。
―― 英語の文法が100%正しいから伝わるわけではない、と。間違った英語でも、「会いたかったよ」という気持ちを訴えることで、もっと相手と距離を縮めることができるわけですね。
緒方 例えば飲み会でも、「Beer! Beer!」しか言わなくても盛り上がることはできるわけです。それは、コミュニケーションには文法や単語の正しさは必要ない、ということでもある。考えてみてください。日本人同士のコミュニケーションだって、相手が正しい日本語を話しているからといって、相手のことを好きになるわけじゃないですよね。