「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

「朝ご飯抜き」によって体に起こる、健康への悪影響とは?Photo: Adobe Stock

やっぱり「1日3食」を食べましょう

 それでも、やっぱり1日2食がいいのか?

 議論は尽きないかもしれませんが、2020年のアメリカの研究報告で、①3食きちんと食べる食事療法と、②正午から夜8時までに食べる食事療法(朝ご飯抜き)を比較したところ、興味深い結果が出ました。

 ②の朝ご飯抜きのグループは体重が減りましたが、①の3食きちんと食べるグループにおいても体重は減少し、その差は統計的に意味のあるレベルではありませんでした。

 ただし、②のグループでは筋肉量が減っていたのです*24

*24 Lowe DA, et al. Effects of Time-Restricted Eating on Weight Loss and Other Metabolic Parameters in Women and Men With Overweight and Obesity: The TREAT Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2020;180(11):1491-1499. DOI: 10.1001/jamainternmed.2020.4153.

 朝ご飯抜きによって筋肉が分解され、体内で「糖新生」が行われ、血糖値が維持されたのでした(糖新生とは、体内で糖質がつくられる働きのこと)。結局、3食きちんと適正に食べていれば、自然にやせていくのです。

消化機能が弱い人は、1日2食が合っている場合も

 ただし、人間は個人差が大きい動物です。

 1日2食でも、体重や筋肉量に変化がなく、体調もすこぶるよいという人もいます。そういう場合には、その人には1日2食が合っていることになります。

 そういった場合は、第1章で説明した「グレリン」やGLP─1(グルカゴン様ペプチド1)に代表される消化管で分泌されるホルモンの機能(食欲や消化管の動きを促進する作用)が体質的に低下している可能性があります。

 つまり、元々消化機能が強くないので、食べすぎると、すぐにお腹が痛くなったり、眠くなったりするので、そういう人の場合には、2食が合っているということです。本来なら、グレリンを誘導する六君子湯(りっくんしとう)などの漢方で消化器系の機能を高めたほうがいいと思われます*25

*25 Takeda H, et al. Rikkunshito, an herbal medicine, suppresses cisplatin-induced anorexia in rats via 5-HT2 receptor antagonism.Gastroenterology. 2008 ;134(7):2004-13. DOI: 10.1053/j.gastro.2008.02.078.

 朝食を食べるか否か。実は、体がきちんとシグナルを送ってくれています。そのシグナルを感じるかどうかが重要なポイントです。

 つまり、最も基本的な「食べる」という行為ですから、安易に、「太ったから食事の回数を減らそう」とか、「できるだけ最小限にしよう」と考えるのは、おすすめできないのです。

 私の病院の外来でよくあることですが、患者さんに、「最近、太ってきましたね?」と尋ねると、「実は最近、飼っていた犬が死んでから、散歩に行っていないので」などと答えられます。

 太るのにはちゃんと原因があって、そもそもみなさんわかっているのです。

 むしろ、最優先すべきは「食事」の制限ではなく、運動など体にとってプラスになることをすること、やっていない状況を改善することではないでしょうか。

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。