企業の人事担当者の中には、採用イベントで大人数向けにプレゼンをしたり、1on1で相手の意見を引き出したりするときに、「話す力」に課題感を感じる人もいるのではないでしょうか。そんな中で「『話す力』は磨けるスキルだ」と語るのは、『新時代の話す力』著者であり、Voicy代表の緒方憲太郎さん。ラジオパーソナリティであり、企業で人事を務めるインタビュアーが、緒方さんに人事に生かせる「話す力」について聞きました。(本記事は、Voicyチャンネル「Voicy Night News」で公開された対談内容を記事化しました。構成/谷本明夢)
相手にいかに楽しんでもらうか
まずはそれを、徹底的に考えよう
緒方憲太郎(以下、緒方) 基本的に、人はどんな場合にも、「相手の話をまじめに聞こう」とはなかなか思いません。手元でスマホを見て、何かしながら話を聞いて、話がおもしろかったら「ちょっと聞いてもいいかな」と思う。
――そう思ってもらえたときに始めて、ぱっと顔を上げてくれますよね。
緒方 相手が興味を持たず、自分の話を聞いてくれていない状態で、いきなり注意を引くおもしろい話をするのってすごく難しいですよね。だからこそ最初に、「私の話を聞くと絶対にメリットがあるよ」「今日一番おもしろい話をするよ」「ストレスなく聞けるよ」といったメッセージで、相手の集中をこちらに向けること。そして、相手が聞いてくれる状態になってから、伝えたいことを丁寧に話すのです。
人事のイベントであれば、そこからさらに聞き手に「この人たちと働きたい」と思ってもらうことが必要です。そのために僕はよく登壇する前、イベント会場内をぐるっと歩きながら、来ている人に直接話を聞いています。
例えば「今日はどんなことを聞きたいですか?」「何か疑問に思っていることはありますか」と質問してみる。先に要望を聞いておくと、聞き手が何を求めて参加してくれたのかを知ることができますよ。
僕の話を聞いてくれる人に、直接要望を聞いておくと、講演中もすごく集中して僕の話を聞いてくれるんです。話す側としても、集中して僕の話を聞いてくれている人がいることで、圧倒的に話しやすくなります。
仮に自分が直接質問されていなくても、「今日、この会場に来てくださった中で、数人に話を聞いてみたところ、うちの会社の雰囲気を知りたいということだったので、そのお話をしますね」なんて言うと、「この話し手は、ちゃんと相手が知りたいと思っている情報をくれるんだな」と感じてもらい、まじめに話を聞いてもらえる確率が高くなります。
このように相手を引きつけてから「私自身はうちの会社のいいところは、オフィスグリコがあるところだと思ってます」とか、ちょっとしたエピソードを加えたりすると、「この人、おもしろいな」と感じてもらえる。
こういう形で聞き手と関係性をつくらず、突然壇上に出てきて、癖の強い話し方で、個性の強いエピソードを繰り広げたところで、聞き手はまったく興味を持てないでしょう。
――ステップを踏まずに個性だけを出してしまうコミュニケーションを、ついやってしまいがちかもしれません。
緒方 それって、ドラマの中でイケメン俳優が花束持って告白しているシーンをまねして、初めてのデートでバラの花束を持ってくるくらい、何かズレていると思うんです。
――コミュニケーションには文脈があって、その文脈をすっ飛ばしたら相手に受け取ってもらえないわけですよね。
緒方 例えば突然、普段柔らかい印象の女性が、デートでパンクな服を着てきたら、「どう理解したらいいの?」となりますよね。相手に「どう理解したらいいの?」って思わせてしまったら、その時点でコミュニケーションは負けなんです。
文脈は、ものすごく大事です。まずは空気を読んで、相手がどう受け取るかを考え、ムードを作って相手の心をつかむこと。それができて初めて、自分らしさや個性を生かすことができるんです。
日本人は、こういう基本のコミュニケーション力が残念ながら低いと感じます。ですから、逆にちょっと勉強するだけで、ものすごく差が出るんです。
――「どうやったら相手に伝わるコミュニケーションができるのか」というポイントは、「相手にいかに楽しんでもらうかを徹底的に考える」ということなんですね。直接会場で参加者に話を聞くなど、すぐに取り入れられそうなアイデアもあり、とても勉強になりました。