コロナ禍のリモートワークなど、オンラインコミュニケーションが増えたことで、対面でのコミュニケーションに苦手意識を抱える人が登場しています。どうすれば人を引きつけられる話し方ができるようになるのでしょうか。経済ニュースキャスターとして活躍するDJ Nobbyさんと、『新時代の話し方』著者であり、Voicy代表の緒方憲太郎さんが、自分らしさで人を魅了するような「話す力」について語り合いました。(本記事は、DJ NobbyさんのVoicyチャンネル「きのうの経済を毎朝5分で!」で公開された対談内容を記事化しました。構成/谷本明夢)
「きれいに話す」と
「魅力的に話す」は別物
DJ Nobbyさん(以下、DJ Nobby) 緒方さんが、自分の「話す力」に自信を持つようになったのは、いつごろでしたか。
緒方憲太郎さん(以下、緒方) 「人より得意かもしれない」と思えたのは、Voicyの経営者として働くようになって、ようやく今、いい感じの組織を作れるようになったころからです。Voicyの社長として、社員やパーソナリティさんなど、さまざまな人と出会うようになる中で、少しずつ、どんな相手とでも円滑に話せるようになってきたなと感じてます。
あとはラジオ番組に出演するようになってからでしょうか。自分でラジオパーソナリティを務めるようになって、「うまく相手の話を引き出せていますね」とほめていただくことが増えてきました。
Voicyも順調に成長して、今では日本最大級の音声プラットフォームとなりました。現在では1600人になったVoicyのパーソナリティさんって、いい意味で、普通の感覚では扱い切れないような“珍獣ランド”になってるんです(笑)。そんなみなさんとお話しさせていただけるような恵まれた環境にいた結果、少しずつ話す力が身につくようになりました。
DJ Nobby 緒方さんはアナウンサー学校にも通っていたんですよね。意外です。
緒方 そうなんですよ。Voicyのサービスを作っているとき、共同創業者でもあるエンジニアの担当者が頑張ってくれていたので、僕はなるべく、たくさんのネットワークと知見を溜めようと思って、アナウンサー学校にも通ってみました。
DJ Nobby 通ってみてどうでしたか。
緒方 すごく勉強にはなったんです。鼻濁音はこう話す、とか。ただ、一番学べたことが、「きれいに話せることが、人を引きつけるわけではない」とわかったことにあります。どんなに発声の練習を重ねても、話の内容がおもしろくなるわけでもなければ、相手が腹を割って話してくれるわけでもない。
実際、アナウンサーの人たちの中で、話すのがうまい人について調べてみたんです。例えば、安住紳一郎アナウンサーとか、人気のあるアナウンサーさんはいますよね。彼ら・彼女らがものすごく饒舌かというと、決してそういうわけではなくて。好かれているのは雰囲気やキャラクターだったりするわけです。
アナウンサー学校に通ったことで、「きれいに話す」と「魅力的に話す」は完全に別物なんだとよく分かりました。それを体系的に知ることができたのはよかったですね。結局、台本通りにきれいに話せたとしても人を引きつけられませんし、相手に心を開いてもらうこともできないんです。
アナウンサー学校では、自分の声を録音して聞く練習もありましたが、実際に聞いてみたら、何も間違えずに丁寧に話しているときの自分の声よりも、間違えたり言いよどんだりしながらも、多少気を抜いて話している自分の声の方がフレンドリーだったんです。ここでもやはり、「きれいに話すことと魅力的に話すことは、全然違うものなんだな」と感じました。
この事実を知ったときは、ショックでもあったんです。というのも、僕の父は元々アナウンサーで、そういう人たちがさらに活躍できる場所をつくりたいと思って、Voicyを創業していたんです。話すプロ向けのサービスを作ろうと思っていたけど、これは違うんじゃないか、と。
アナウンサーになってある程度の経験を重ねると、テレビ局やラジオ局で自分の枠が持てなくなるんですね。キャスターなど、表に出る仕事は後任に任せて、編成部などに回っていく。僕の父もそうでした。
しかし、まだ父の声を聞きたいと思ってくれる人が200人くらいはいたと思うんです。ただ、200人のためにテレビ局やラジオ局の番組を用意するわけにはいきません。そういった人の声が、もっと幅広いリスナーに届くようなサービスが作れたらいいなと思ってスタートしたのがVoicyだったんです。
でも、好かれる話し方などを調べていくと、元アナウンサーの親父が話すよりも、普通にしゃべるのがうまい営業パーソンの話の方が、リスナーには受けそうだな、と思うようになりました。実際にVoicyという音声プラットフォームを始めてみると、僕が思った通り、おもしろい話のできるパーソナリティさんのVoicyチャンネルが伸びたんです。やっぱりそうだったのか、と思いましたね。