企業の人事担当者の中には、採用イベントで大人数向けにプレゼンをしたり、1on1で相手の意見を引き出したりするときに、「話す力」に課題感を感じる人もいるのではないでしょうか。そんな中で「『話す力』は磨けるスキルだ」と語るのは、『新時代の話す力』著者であり、Voicy代表の緒方憲太郎さん。ラジオパーソナリティであり、企業で人事を務めるインタビュアーが、緒方さんに人事に生かせる「話す力」について聞きました。(本記事は、Voicyチャンネル「Voicy Night News」で公開された対談内容を記事化しました。構成/谷本明夢)

相手に気持ちよく話を聞いてもらうためのたった1つの工夫Photo: Adobe Stock

多くの人に伝えるときと1対1で
求められる「話す力」は全然違う

――私は、ラジオパーソナリティのほかに、本業では人事の仕事をしています。どちらの仕事でも「話す力」が重要だと感じていますが、ひと言で「話す力」と言っても、採用イベントなどで多くの人に向けて話すシーンと、採用候補者の人と1対1で話すシーンでは、違う能力が必要だと感じています。緒方さんは普段、それぞれどのようなポイントを意識しながら「話す力」を使い分けていますか。

緒方憲太郎さん(以下、緒方) 多くの人に届けたいときと、目の前の1人の人と話すときに必要な「話す力」は「マーケティング」と「営業」くらい違います。

 例えば営業で、目の前の人に教材を売りたいとき。相手に今、どんな勉強をしているのかを聞いて、相手が「実はちょうど勉強を始めようと思っていたんだよね」と打ち明けてくれたとする。そうすると、「ちょうど今、こういう教材がありますよ」と提案できますよね。

 一方でマーケティングによって多くの人に教材を届けようと思うと、最初にコミュニケーションを重ねて相手のニーズを聞き出すことができません。

 SNSなどで、「あなたは最近勉強していますか?」「はい or いいえ」など、まず質問が出てきて、どんどん答えていった先に出てくる広告なんて、見たことがありませんよね。マーケティングの世界では、目に入った瞬間に、相手に食いついてもらう必要があります。

「話し方」も同じで、多くの人へ向けた「話す力」と、1人の人との「話す力」はまったく異なります。1on1では相手の話をいかに引き出せるかが鍵になります。なぜなら、その人が求めているものを一番知っているのは、その人自身だからです。

 まず、相手が話しやすい場をつくってあげる。相手が「この人、話しやすいな」と思って、腹を割って話し始めてくれたら、さらに質問を重ねて相手の話を引き出していく。そうやって、相手がどんなことを求めていて、どんなゴールに向かっているのか分かることで、一緒に向かっていけるゴールを提示することができます。

 でも、多くの人に対して話すシーンでは、一人ひとりに合わせたゴールを提示することはできませんよね。その場合、「どうやったら自分のことを多くの人に受け止めてもらえるか」を考える必要があります。

 聞き手に受け止めてもらうために、最初に「今日は5分でしゃべりますね」「今日お話ししたい内容は、大きく3つあります」など、全体像を伝えてあげる。そうすることで、「この人の話は理解しやすいな」と思ってもらうことができます。

 このように、多くの人へ向けての話し方と、1on1での話し方はまったく違うんです。

「自分らしさ」を表現する前に
まずは相手に与える不快感をなくす

緒方 多くの人に向けて話をするとき、「自分らしさ」を伝えて関心を持ってもらうことは大切ですよね。では、どうやったら「自分らしさ」を表現できるのでしょうか。それは逆に、「自分らしさ」が表現できないときってどんなシーンだろうと考えると効果的です。

『新時代の話す力』にも書きましたが、聞き方にも話し方にも、4つのステップがあります。1番目は「聞き手のストレスを減らす」。2番目が「分かりやすく話す」。3番目は「聞き手に合わせて話す」。最後に「自分らしく話す」。

 ステップごとに難易度が上がります。ステップを飛ばして突然「自分らしさ」を出そうとすると、相手にびっくりされてしまうので、注意が必要ですね。

――「その人らしさ」を受け取る心の準備ができていない、ということですね。

緒方 そうなんです。ですから、まず「聞き手のストレスを減らす」というステップから始めるのがオススメです。

 例えば、多くの人へ向けて話すとき、特徴的な口癖が多すぎるとか、声のボリュームが上がったり下がったり不安定なだけでも、聞いている側はストレスを感じます。今の時代、ネットの動画を倍速で再生する人が増えています。そうなると、ゆっくりした話し方を聞くことだけでもストレスになるんです。

 だったら、短くまとめて話したり、結果から先に伝えてあげたりするといい。

 聞き手が「この人の話なら聞いてもいいかな」という姿勢をまずつくることが大事なんです。