「ヒビチュー」で妻への愛を絶叫する参加者。そのすがすがしさと勇気と熱い言葉に、筆者も胸に熱いものを感じた

 1月29日午後5時。夜のとばりが下り始めた寒空の東京・日比谷公園。しかし大噴水前の特設ステージだけは、異様な熱気が漂っていた。日本愛妻家協会と日比谷花壇によるイベント「日比谷公園の中心で妻に愛を叫ぶ」(略称ヒビチュー)が、今まさに開かれようとしていたのだ。

 ヒビチューは、愛妻家を増やす活動を展開する日本愛妻家協会が制定した1月31日の「愛妻の日」(「1」をアルファベットの「アイ(愛)」、「31」を「サイ(妻)」と語呂合わせしたもの)を前に、2008年以来毎年開かれているイベント。帰宅途中のサラリーマンなどの男性が、日頃妻に言えない愛や感謝の言葉を大空に“咆哮”するものだ。

 イベントの幕が切って落とされると、30~40代の男性たちが次々と壇上に登り、妻への愛情を絶叫し始めた。

「これからもずっとお前のことを愛し続けるぞ~!!」「世界中の男たちの中からこんな俺を選んでくれて、ありがとう! 大好きだよ~!」「僕にとって君の代わりはどこにもいません! 愛してるよ~!!」

 園内にこだまする名言の数々。愛情表現が苦手とされる日本男児とは思えない堂々とした愛の告白だ。

 山梨県韮崎市から仕事で上京し、飛び入り参加した結婚歴9年の歌田篤さん(37)は、「普段、感謝の気持ちや愛の言葉を言えていないので、この機会にどうしても伝えたかった」と話す。また、東京在住で結婚歴14年のムライタケシさん(40)の叫びをその場で聞いた妻の朋子さん(50)は、「グッときました。ちょっと涙が出ちゃいました」。

 今年1月に挙式し、愛妻の日に入籍する東京在住の三木逸平さん(30)は、「普段自宅でも愛していると言っているが大きな声は近所迷惑になるので出せない。今日は気持ちよく叫びました」と満面の笑みだ。同伴し叫びを聞いた妻の美和さんは、「すごく嬉しかった」と喜びを隠さない。会場は終始幸せな空気に包まれていた。

 ところで、イベントの裏側では「愛妻の日」に合わせた企業の販促活動もじわじわと広がっている。イベント共催者の日比谷花壇は、夫が早めに帰宅し、妻に愛の言葉を伝えて花を渡すキャンペーン「愛妻の日 男の帰宅花作戦」(実施期間は1月31日まで)を仕掛ける。

 期間中は愛妻の日特別商品の販売、購入者への割引特典付き「愛妻家宣言書」と「特製ハグマット」のプレゼントを実施する。販売量は年々増加し、「初年度の2008年に比べたら売上は数十倍」と同社広報部は話す。

 さらに、食べ終わった愛妻弁当の箱を日比谷公園店に持参すると、中に生花をアレンジして詰めてくれるサービス「ARIGATO BENTO」(実施期間は1月31日まで)や、結婚式を挙げていない夫婦を対象にウエディングドレスとタキシードなどの礼服を着て記念撮影し、フルコースディナーを楽しむ「愛妻記念日プラン 2013」(実施期間は1月31日~4月22日)なども販売する。

 一方、今年は他社も「愛妻の日」に乗じ、様々なキャンペーンを展開している。東京・文京区の東京ドームホテルでは、愛妻の日の特別ディナーや宿泊プランを用意。食材宅配サービスのOisixでは、ハートの絵が描かれたリンゴ「ラブリー愛さいりんご」を愛妻の日に向けて発売し、当日を前に売り切れるほどの人気となった。あるいは東京・町田市の町田マルイでは、愛妻の日特設コーナーが設置され、関連商品を大々的に販売している。

 イオングループの愛知県内のチラシでは「愛妻の日」特集が組まれ、妻をもてなす食材やスイーツを紹介。京都新聞の紙面には飲食店や小売店で使える「愛妻の日クーポン」が掲載され、福岡県のレストラン「ザ ヴィラズ」では妻の飲食代を無料にする「愛妻家ひいき割引」を実施した。

 日本愛妻家協会主任調査員の小菅隆太氏は、「愛妻の日の呼称もロゴも無料でオープンソースとして各社に自由に使って良いと言っている。それが奏功し、今年は例年以上に販促活動の輪が全国に広がっているようだ」と話す。

「母の日」「父の日」「バレンタインデー」「いい夫婦の日」など、近しい人に感謝や愛を伝える日には消費も動く。「愛妻の日」もいよいよそれらのメジャーな記念日に仲間入りし、販促、消費のポイントとなる気運の芽が出てきたを言える。来年以降、各社がより力を入れてくる可能性は十分にあるだろう。

 日本愛妻家協会では、1月31日の午後8時9分に夫が妻をギュッと抱きしめる「ハグタイム計画」も提唱した。世のサラリーマンの皆さん、たまには早めに帰宅し、実践してみてはいかがでしょう――。

(大来 俊/5時から作家塾(R)