部下の言動がいちいち気にさわる…もっと「器の大きい人」になりたい…。そういう悩みを打ち明けるリーダーがたくさんいらっしゃいます。しかし、自分のなかに自然と湧き上がるイライラを抑えつけても苦しいだけ。そして、相手にもそのイライラは伝わります。では、どうすればよいのか? 職場リーダーの心理を深く追究して話題の『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』の著者・櫻本真理さんに、誰にでもできる「心の器」を広げる方法を解説していただきました。

「器が大きい」リーダーがやっている、たった一つのことPhoto: Adobe Stock 写真はイメージです

多くのリーダーが悩んでいること

「もっと器が大きい人になりたいとは思うんです。でも、つい腹が立ってしまって、態度に出てしまうんです」

 そんなふうにおっしゃるリーダーは少なくありません。

 部下が失敗をしたり、思うような行動をしてくれなかったり。そんな場面で、穏やかでいられないのは自然なことです。でも、「器が大きい」と感じられるリーダーは、そんなときに感情をあらわにしたり、部下に怒りをぶつけたりはしないでしょう。

 では、「器が大きいリーダー」とそうでないリーダーは、何が違っているのでしょうか。

「介護士さんの問い」に学んだこと

 以前、テレビ・ドキュメンタリーを観ているときに、印象的な場面に出会いました。

 ある介護士の方が、認知症のおじいさんと散歩をしていた時のことです。おじいさんは突然、道端の空き地で立ち止まり、生い茂った草を黙々と抜き始めたのです。介護士が「行こう」と言っても聞き入れてくれません。

 他の利用者の方々も待っているでしょうし、「早く施設に戻らなければ」と焦る気持ちになるのは当然です。

 怒って「もう行くよ!」と無理やり連れて行くこともできたはずです。そんな小さなストレスが日々蓄積し、「もうこんな仕事いや!」という気持ちに陥ってしまうことも、想像に難くありません。

 しかし、この介護士さんは違っていました。おじいちゃんと目線を合わせて、静かに問いかけました。

「なんで、草取りたくなったん?」

 すると、おじいちゃんはポツリと答えました。

「前はここ、いつも町内会で僕がきれいにしよったんよ」

 この瞬間、私はそれまでとはまったく違うストーリーをみている気持ちになりました。

 それまで私は、「自分が介護士だったとしたら、ワガママな認知症患者さんに手を焼いて、イライラしちゃいそうだな」と思いながらテレビを観ていましたが、このおじいちゃんの一言を聞いた瞬間に、「さまざまな誇りや生きがいを持ちながら生きてきたおじいちゃんの人生」を垣間見たように感じられ、怒りや苛立ちがスーッと消えて、おじいちゃんの“困った行動”を受け止める「心の余裕」が生まれたのです。いわば、「心の器」がぐっと広がったように感じたのです。

器が大きいリーダーは、何が違うのか

 このとき、次のようなことに気づきました。

 おじいちゃんが草を黙々と抜き始めるという行動だけを見たときには「困ったな」としか思えなかったように、部下や同僚の「言葉」や「行動」だけを見ても、その背後にある彼らの「経験」や「歴史」はわかりません。

 ところが、私たちはついつい相手が表現した表面的な「言葉」や「行動」に対して感情的な反応をしてしまう。その結果、おじいちゃんに対してイライラしてしまうような、過ちを犯してしまうのです。

 相手の言動がこちらにとって不可解な言動であっても、その言動を生み出す背景にある「物語」を知れば、その不可解な言動が「了解可能な言動」に変わることはしばしばあるのです。

 このことをしっかりと理解して、相手の表面的な言動にとらわれるのではなく、その言動の背景に存在する相手の「物語」を知ろうとすること。そして、あらゆる物事に対する複数の目線を持つことができているのが「器の大きい」リーダーなのだということです。

「解像度の違い」を意識して問いかける

 リーダーとメンバーでは、見えている景色がまったく違います。それは立場の違いからくる「見ている範囲の広さ」や「視座の高さ」によるものです。

 リーダーは、チーム全体や中長期の目標といった「広くて解像度が低い世界」を見ていることが多いでしょう。一方で、メンバーが見ているのは、自分の仕事や目の前の状況といった「狭いけれど解像度が高い世界」です。

 あるリーダーがこう話してくれました。
「新しい方針を伝えようとすると、いつもメンバーから不安や反発が出てきて。もっと前向きに受け取ってくれたらいいのに、って思ってしまって…」

 でも、こう考えてみることはできないでしょうか?

 実はその反発や不安は、「解像度の高さ」ゆえの反応かもしれません。現場で起こりうるリスクや、実務レベルでの影響を一番リアルに想像できるのは、まさにメンバー自身だからです。

 だからこそ、こんな問いかけを自分にしてみてください。

「自分には見えていない何かが、相手には見えているのかもしれない」

 この視点を持つだけで、相手の発言の背景にある現場感や具体的な不安が、ぐっとリアルに感じられるようになります。そこから関係性に信頼が芽生えていくのです。

 まずは、相手が見ている景色を受け止めること。そしてそのうえで、リーダーだからこそ見えている全体像や未来の可能性を伝える。この順番が大切です。

「自分に見えていること、相手に見えていることは何だろう?」
「逆に、自分や相手に見えていないことは何だろう?」
「このズレの背景には、どんな視点の違いがあるのだろう?」
「この人は、どんなふうに世界を見ているんだろう?」

 このようなことを想像しながら、相手の言葉で世界を理解しようとする。そうした姿勢で関わることで、相手は「この人は自分を否定しないと信じられること」「大切にしてもらえている安心感」「頭が整理されている感覚」と思ってくれるようになります。そのとき、「器の大きい人」になれるのです。

(心理的リソースについては、『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』に詳しく書いてあります)

櫻本真理(さくらもと・まり)
株式会社コーチェット 代表取締役
2005年に京都大学教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotree、2020年にリーダー向けメンタルヘルスとチームマネジメント力トレーニングを提供する株式会社コーチェットを設立。2022年日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。経営する会社を通じて10万人以上にカウンセリング・コーチング・トレーニングを提供し、270社以上のチームづくりに携わってきた。エグゼクティブコーチ、システムコーチ(ORSCC)。自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング/コーチング両面でのアプローチが強み。著書に『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』(ダイヤモンド社)。