写真:高知県須崎市の「池ノ浦漁港」高知県須崎市の「池ノ浦漁港」。豊富な海の幸が獲れる Photo:PIXTA

年々寄付額が拡大している「ふるさと納税」。2021年度は全国の寄付額の総計が、過去最高額となる8300億円を突破した。自治体間の競争も過熱しており、「稼げる自治体」「稼げない自治体」で明暗がくっきりと分かれている。そんな中、2014年に200万円だった高知県須崎市の寄付額を、たった1年で6億円、8年後には26億円まで増額させた“中の人”がいる。須崎市は人口約2万の田舎町で、住民は「須崎には何もない」と口をそろえていたというが、どのようなからくりで成果を実現したのか。本人に話を聞いた。(うずら制作 小林友紀)

当初は200万円だった「ふるさと納税」の寄付金を
6年間で1000倍以上に拡大

「最初は、こんな町で定年まで働きたくないと思ったんです」

 こう語るのは、高知県須崎市の元市役所職員、守時健氏だ。ふるさと納税担当として、2022年度までの8年間で寄付額を200万円から26億円と、実に1000倍近く増額させた立役者である。そんな彼は、2012年に26歳で入職した直後の気持ちを先の言葉で振り返る。

 四国の南端、太平洋を望む人口約2万の小さな港町である須崎市には、大学時代の旅行でたまたま訪れた。陽気にお酒を飲み、祭りで楽しげに踊る町の人の朗らかさにひかれ、半ば勢いで就職を決めた。岡山県出身で大学は大阪。田舎暮らしへの憧れもあったという。

 公務員試験を突破し、晴れて市役所職員として企画部に配属された守時氏は、初めて市の惨状を知りがくぜんとする。当時須崎市は財政状況が悪化しており、守時氏の在籍時には全国ワースト5位を記録した。市役所内にはどこか諦めムードが漂い、住民は決まり文句のように「須崎には何にもないから」と繰り返した。そんな状況に、思わず口を突いて出たのが冒頭の発言だった。同時にこうも思ったという。

「せっかく須崎の魅力にひかれて移住したからには、この現状をどうにかしたい」

 そこで思いついたのが、当時創設されてまだ数年だったふるさと納税の制度だ。2013年当時は、全国の寄付額の総計もまだ100億円台とまさに黎明(れいめい)期。にもかかわらず、高知県内では2000万円超の寄付を集める自治体が登場し、一部では話題になり始めていた。守時氏もそこに目を付けた。

「須崎でも返礼品をアピールして寄付金を集めよう。それを元手にさらに町をPRして、住民が胸を張れる町にしよう」