「見た目は変で、しゃべりも下手、お笑い芸人としての才能もない」と思いこみ、コンプレックスのかたまりだったスリムクラブ・内間政成さんは、そんな自分を人に知られないように、自分の本心を隠し、見栄を張って、いつわりの人生を送ってきました。しかし、それはどうしようもなく苦しかった。自分で自分を否定しているようなものですから。
ある出来事をきっかけに、内間さんは自分自身と向き合い、自分という存在を少しずつ受け入れられるようになっていきます。その結果、何が起きたのか。今まで自分の欠点だと思い込んでいたことが、そうじゃないことがわかってきました。自分の欠点を「欠点だ」と決めつけているのは、他の誰でもない、自分自身だったのです。
「僕はカッコ悪い」「僕は人をイラつかせる」「僕は恐れ過ぎている」「僕はすぐ調子に乗る」「僕は怠け者」と、自分の欠点をさらけ出せるようになった内間さんはいま、ストレスフリーの時間を楽しそうに生きています。そんな内容の詰まった本が、内間政成さんの書籍等身大の僕で生きるしかないのでです。無理やり自分を大きく見せるのではなく、等身大の自分を受け入れれば、人生は好転する。そのためのヒントを本書からご紹介します。(撮影・榊智朗)

自分の中の「天然」と上手に付きあう方法

自分の中の「天然」の意味を知ることで、心が軽くなる

 僕はよく天然と言われますが、自分ではそう思ったことはありません。そして、以前は天然と言われるのが嫌でたまりませんでした。15年ほど前に相方と当時相方の彼女だった現在の嫁さんとで飲みに行きました。序盤は楽しかったのですが、突如彼女が「内間さんって天然だよね?」と言ってきたのです。カチンときました。馬鹿にされていると思いました。僕は、天然とは、劣っている人間のことを指していると思っていました。だから、それを言われてからは、その後の時間は彼女とは一切喋ることはありませんでした。

 天然とは一体何なのでしょうか? ネットで調べてみると、周りの人とは違う言動を行う人を指して使われているそうです。それを言われると、思い当たる節が多々あります。昔、相方の家に遊びに行ったことがあります。行くと、相方はワンルームのリビングで座布団に座り、テレビでウイニングイレブンをしていました。

 そこで相方が、「座布団使って、適当に座って」と言ってくれたので、座りました。僕はゲームにあまり興味はないのですが、ウイニングイレブンは別でした。相方のコンピューターとの対戦を夢中で観ていると、突如相方が「内間、何でそこに座るの?」と言ったのです。え!? 座布団を使って、適当に座ってと言われたから、そこに座っただけなのに。もしかしたら、座っちゃいけない場所があったの!? しかし、自分の座っている位置を確認して驚きました。そこは、相方の背後だったのです。僕の視界に映っているのは相方の背中でした。知らず知らずに、相方とピタッと一列に並んで座っていたのです。

 では、なぜそこに座ったのか? それは、そこに座布団があったからです。僕は、相方に「座布団を使って、適当に座って」と言われた瞬間に、もう座布団しか見えなくなっていました。そして、座布団を移動させるという発想は全くありませんでした。ネットで調べてみると、天然は周りが見えなくなる傾向があるらしいです。

素直に自分の想いだけは伝えようと思ったのに。。

 発言に関してもあります。以前番組で、男の娘(オトコノコ)の生体を調査するロケがありました。男の娘とは、肉体的性別は男性ですが、見た目が女の子にしか見えない男性のことを言います。その方は20代前半で、とにかく可愛くて健気で、応援したくなるような人でした。2回目の出演のその方は、近況報告をしてくれました。

 故郷にいるお母さんは、男の娘であることに反対しており、疎遠になっていたそうですが、前回の出演をキッカケにお母さんと頻繁に連絡を取るようにはなったそうです。そこで今回は、僕らスリムクラブとその方と3人でお母さんに理解してもらうために、会いに行くことになりました。

 故郷で、その方が関わってきた思い出の人に会ったり、場所を訪れ、いよいよお母さんとご対面というところまできました。緊張感が高まります。ただそこで、クリアしなければならない課題がありました。それは、お母さんにも出演してもらいたいということです。だから、ご対面の前にスリムクラブだけでお母さんと会い、説得をしようと試みました。

 しかし、お母さんは頑なに拒否。そりゃあ、そうですよね。お母さんの気持ちは痛いほど分かります。でも出演した方が、番組が盛り上がるのは間違いありません。だから僕たちは、色々と提案しましたが、突破するほどのものはなく、ありきたりのモザイクや音声加工の提案くらいしかできませんでした。

 もう無理か! そのとき、ディレクターが僕にカンペで「内間さん、何か一言」と出してきたのです。僕はそういったことは下手くそなのですが、素直に自分の想いだけは伝えようと思いました。それは、あなたのお子さんは悩みながらも、一生懸命生きていて、視聴者で同じ境遇の人がいたら、その方々に勇気を与えることができるということです。ですが僕は、言葉がまとまらず、思わず「お母さん! 僕、男の娘を見ていると興奮するんですよ! だから、出演してください!」と言ってしまったのです。

 言いたいことが全然言えてない! 僕の性癖を発表しているみたいです。その言葉を聞いたお母さんは、拒否することも忘れて、しばらくポカーンと固まってしまいました。僕はどう弁解していいのか全く思い付かず、ただただ真っすぐお母さんを見続けていました。その光景を見ていたディレクターは、そっとカンペを閉じました。

 僕の不甲斐ないプレーで、この後ロケはどうなるんだ、と心配していましたが、その後、女装をした男の娘とお母さんは、カメラが回っていない所で2人っきりで会い、なんと、お母さんに理解してもらったそうです。ホッと一息。とりあえず、ハッピーエンドで良かったです。

「好きな豚料理は何?」

 他にも、鈴木福くんにインタビューをしたことがあります。その頃の僕らは毎週、番組のコーナーで芸能人に突撃インタビューをしていました。平均5分という短い時間で、相方の仕切りの中、5問ほど質問するのですが、最後の1問だけは、僕が自由に質問することができました。だから僕は、その1問に全精力を注ぎ、笑いを取りにいこうとします。今回の福くんは、長編アニメの声優を担当するそうで、それを軸に広げていきます。

 当時8歳の福くんは、可愛らしくもありながらも、子どもとは思えないほどのしっかりとした口調で映画を宣伝しながら、巧みに質問に答えていきました。そしていよいよ、僕の質問の番です。そこで僕は、「好きな豚料理は何?」と、質問しました。すると、場の空気が一瞬で凍り付いたのです。何で!? 僕は大爆笑を期待していました。意味が分かりませんでした、あのときは。でも今なら、当たり前の現象だとハッキリと分かります。なぜなら福くんの役は、子ブタだったのです。今更ですが、ゾッとしました。でもあのときの僕のお笑いは、アレだったのです。

 しかし、福くんは冷静に笑って「豚は食べれないよ」と言ってくれたのです。そのコメントで、その場の空気が息を吹き返しました。感謝です。もし、僕が福くんだったら、「生姜焼き」と答えていたと思います。

「それって昔話?」

 こんなに事例があったら、僕は天然かもしれません。現在45歳の僕は、昨日、相方に「アリの巣コロリって知ってる?」と聞かれ、「それって昔話?」と答えています。僕は、「おむすびコロリ」に次ぐ作品だと思っていました。

 僕は、だんだん自分が天然かもと思い始めてもいます。そこで、気づいたことがあります。「天然」という言葉を、自分が言われたら嫌ですが、他人に言うときは、愛くるしいと思っているということにです。全く意味合いが違います。ということは、「天然」という言葉自体には、特に意味はないと思いました。他の言葉でも捉え方次第で、同じ現象が生まれていたかもしれません。

「天然」=「あなたはできない」とはき違えていた

 僕は、「天然」という言葉を言われたときに、その言葉で触発され、ネガティブな感情が生まれてしまっていたのです。それは何か? 僕の場合は、人はできるのに、自分ができないと強く思っている部分がありました。だから、「天然」=「あなたはできない」とはき違えていたのです。

 現に、相方の嫁さんは、僕を「面白いね」という意味で「天然」という言葉を使っていました。どうでしょうか? 自分の想いを探ってみると、面白いことに気づくかもしれません。今では僕は、天然と言われても嫌な気はしません。ですが、それをハッキリさせたい気持ちがあったので、天然度診断を受けてみました。結果は、90%でした。

自分の中の「天然」と上手に付きあう方法内間政成(うちま・まさなり)
芸人。スリムクラブ ツッコミ担当
1976年、沖縄県生まれ。2浪を経て、琉球大学文学部卒業。5~6回のコンビ解消を経て、2005年2月、真栄田賢(まえだ・けん)とスリムクラブ結成。「M-1グランプリ」は、2009年に初めて準決勝進出。2010年には決勝に進出し準優勝。これをきっかけに、人気と知名度が上昇。「THE MANZAI」でも決勝進出。2021年1月、「2020-2021ジャパンラグビートップリーグアンバサダー」に就任。