「見た目は変で、しゃべりも下手、お笑い芸人としての才能もない」と思いこみ、コンプレックスのかたまりだったスリムクラブ・内間政成さんは、そんな自分を人に知られないように、自分の本心を隠し、見栄を張って、いつわりの人生を送ってきました。しかし、それはどうしようもなく苦しかった。自分で自分を否定しているようなものですから。
ある出来事をきっかけに、内間さんは自分自身と向き合い、自分という存在を少しずつ受け入れられるようになっていきます。その結果、何が起きたのか。今まで自分の欠点だと思い込んでいたことが、そうじゃないことがわかってきました。自分の欠点を「欠点だ」と決めつけているのは、他の誰でもない、自分自身だったのです。
「僕はカッコ悪い」「僕は人をイラつかせる」「僕は恐れ過ぎている」「僕はすぐ調子に乗る」「僕は怠け者」と、自分の欠点をさらけ出せるようになった内間さんはいま、ストレスフリーの時間を楽しそうに生きています。そんな内容の詰まった本が、内間政成さんの書籍『等身大の僕で生きるしかないので』です。無理やり自分を大きく見せるのではなく、等身大の自分を受け入れれば、人生は好転する。そのためのヒントを本書からご紹介します。(撮影・榊智朗)
自分の欠点を隠すための偽装工作
僕は自分の広いおでこが大嫌いでした。でも今ではそれが自分らしいおでこで、好きになってきてます。
僕のおでこはかなり広いです。おでこに自分の手のひらを横に当ててみると、余るほどの広さです。自分でもビックリするのが、顔に対するおでこの比率は幼稚園の頃から変わっていないことです。その頃は特別意識はしていませんでしたが、成長し、様々な人のおでこに出会うにつれ、自分のおでこが変だと思うようになり、恥ずかしくなってきました。
人と会話するときも相手の目線が気になります。この人、僕のおでこを見て引いているよな。かわいそうだと思っているよな。
そして「どうにかして隠したい」と思うようになったのは、高校生の頃です。それまでは丸刈りが伸びたようなヘアスタイル。自ずとおでこが主張されます。
そこで僕が取った策は、できる限り眉を上げる表情を作り、おでこを狭めることです。今思い返してみると不気味な表情です。常にビックリしている表情なのですから。
その反省を活かして髪を伸ばし始めました。ただ伸ばすのではなく、おでこを隠すのが目的なので当然前髪を意識しました。そこで取り入れたのが、「マッシュルームカット」です。鏡に映っている自分の姿を見て感動しました。おでこの存在が皆無だったからです。もう表情を作らなくてもいい。穏やかな人生のスタートです。
そしてまた運が良いことに、当時は絶大な古着ブームでした。マッシュルームカットにフレアパンツの僕を見て、お洒落(しゃれ)だと思われるようにもなりました。それを機にファッションに執着し始めます。生まれて初めて手に入れた武器。嬉しさで有頂天になっていました。
そして時が流れ、ヘアスタイルは更にエスカレートしていきました。カラーリング、そしてパーマにも手を出したのです。お洒落に長けている人が通う美容室でカラーリングとツイストパーマをかけました。
すると僕に、サッカー元コロンビア代表のバルデラマのようなワイルドさが加わりました。満足でした。でも時間が経つにつれパーマは落ちるものです。大学生の身の僕には、頻繁(ひんぱん)にパーマをかける財力はありません。でもこれをキープしなければならないという恐怖心はどんどん強くなっていきます。どうにかならないものか。考えよう。あっ、あれがあるじゃないか。それは、スーパーウルトラハードスプレーです。魔法のように一気に息を吹き返しました。僕はますます自信がついていきました。もっと求めよう。バイクを買いました。レトロなスタイルのスズキ「コレダスポーツ50」。今の僕に合っています。それにまたがり頻繁に「みんな、俺を見てくれ!」と繁華街(はんかがい)を駆け抜けました。気分はマックス上々です。
でも一つだけ問題点がありました。それは「ヘルメット」です。当然かぶらなくてはなりません。でもそれをしてしまうとセールスポイントが破綻(はたん)してしまいます。だから僕はヘルメットを脇に抱えて運転していました。せめてもの「ノーヘルじゃありませんよ」という謎のアピールです。誰がどう見てもノーヘルなのですが。発覚するのは時間の問題です。はい。白バイ隊に捕獲されてキップを切られました。沖縄の街で、「お兄さん、ヘルメット持ってるさー。何でかぶらんの? もったいない」と、不思議そうに尋問する白バイ隊員の表情を今でも忘れられません。
僕のヘアスタイルは自分の欠点を隠すという偽装工作でした。このネガティブ精神スタートの行動は必ず崩壊します。
広いおでこを出したら、可愛がられるようになった
ある日の飲み会での集合写真。現像された写真を見て目を疑いました。僕の頭頂部(とうちょうぶ)に穴があいていたのです。何度も見直しました。やはり穴です。まさか頭頂部がとは。おでこばかりに気を取られて、完全にノーマークでした。「頭隠して尻隠さず」です。髪が抜けている。一気に力も抜けました。
もうためす術はありません。もう諦めよう。鏡に映っている自分に向かって「受け入れよう」と決心しました。どうしたらこの自分を受け入れられるのか? 僕の中では、もう答えは決まっていました。右手にバリカンを握っています。「バィーン! バィーン!」と、バリカン音だけが静かな部屋に響き渡りました。頭も心もスッキリしました。鏡の中のツルツルのおでこをただぼんやり眺めていると、「俺も頑張っているな」と少し愛(いと)おしくなりました。
そしてこのおでこは「ただの内間の一部のデザイン」なんだと思えるようになりました。そしてこのおでこを、恥ずかしがらないとならないと決定していたのは、自分自身だと気づきました。別に他人に僕のおでこに対して何か言われたわけではありません。
人間は、行動することによって慣れていくものです。僕もどんどん慣れてきました。今では顔面丸出しです。卑猥(ひわい)と言われることもありますが、それも楽しんでいます。そして何よりも得をするようになりました。
ネタで相方は僕のおでこを「パーン!」と叩いてツッコミます。そのときの音が素晴らしく心地よく響くのです。営業先では子どもたちが喜んで、チャンスがあれば僕のおでこを叩きに来ます。たまに、子どもたちだけでなく、青年や中年男性も来ます。色々な人に叩かれるときに繋がりを感じ、何とも言えない幸せを感じます。とにかくこのおでこのおかげで、喜びが増えました。
ただ僕は、「おでこを受け入れた」だけです。
芸人。スリムクラブ ツッコミ担当
1976年、沖縄県生まれ。2浪を経て、琉球大学文学部卒業。5~6回のコンビ解消を経て、2005年2月、真栄田賢(まえだ・けん)とスリムクラブ結成。「M-1グランプリ」は、2009年に初めて準決勝進出。2010年には決勝に進出し準優勝。これをきっかけに、人気と知名度が上昇。「THE MANZAI」でも決勝進出。2021年1月、「2020-2021ジャパンラグビートップリーグアンバサダー」に就任。