65歳で定年退職を迎え第2の人生がスタートしたとき、長年連れ添った妻との関係は新たなステージに突入する。老後のお金、生活、健康……現役時代とは異なる観点での話し合いが必要だ。アフター60歳の経済コラムニスト・大江英樹氏と、その妻で確定拠出年金アナリスト・大江加代氏が考える、老後資金管理法のリアルとは。本稿は、大江英樹・大江加代著『お金・仕事・生活…知らないとこわい 定年後夫婦のリアル』(日本実業出版社)の一部を抜粋・編集したものです。
夫・英樹
「老後不安からの投資デビューは注意」
どうも日本人の多くは得体の知れない老後不安に惑わされ、お金を貯め込んでしまいます。
あるデータによると、日本人は亡くなる時に持っている金融資産の額は平均で3000万円を超えているそうです。そのお金を元気なうちに有効に使っていれば、もっとよい人生が送れたのに、というのが私の思いです。
それでも、使わずにじっと貯めているだけであれば、まだマシでしょう。そのお金は一部が相続税という形で国庫に戻り、残りの大半は若い世代に資産移転されるからです。
「お年寄りは年金をたくさん貰えるからいいなぁ」という若者はいるでしょうが、世の中全体で見れば、心配しなくてもたくさん年金をもらったお年寄りは、それを使わずにあなたのところに相続されることになるので、あまり心配する必要はありません。
問題なのは、老後不安にあおられて慣れない投資を始めるとか、もっと悪い場合は悪質な業者にすすめられて変な金融商品を買わされることです。
人間の行動を最も強く促す要因は「欲望」と「恐怖」です。
高い洋服や高級な自動車を買いたいのは、よい物がほしいという欲望があるからですし、それほど必要のない保険に入るのも、何かあったらという恐怖がそうさせます。
ところが投資の金融商品を購入する理由は、老後不安という「恐怖」と、あわよくば儲けたいという「欲望」の両方があるので、けっこう厄介なのです。
欲望と恐怖に対して過剰に反応するのではなく、まずは今後のお金の流れ、収支をきちんと分析して「見える化」をするのが大事であることは前にも述べたとおりです。
資金不足がはっきりしたのであれば、身体が健康であれば長く働くことが優先順位の第1位だと思います。投資という不確実なもので成果を得るよりも働いて稼ぐほうが確実です。
特に注意しておくべきなのは、退職金とか親からの遺産相続でまとまったお金が入る時です。普通のサラリーマンが生涯にまとまったお金を手にするのはこの2つです。
特に注意するのは退職金でしょうね。相続と違って、こちらは自分が働いてきたことに対するごほうびだと思うので、より自分の意思で活用したいと思うからです。
私は「退職金で投資をしてはいけない」と言うつもりはありませんが、これは完全に人によりけりです。若い頃から投資を経験してきた人や、退職の時点で退職金以外にもかなりまとまった金融資産を持っている人であれば、退職金を投資にまわすのはかまわないと思います。