4月は入社、異動、転勤が多い時期だ。新生活は楽しみにをもたらす反面、急激な変化に気持ちが追いつかず、体調を崩す人も少なくない。ストレス過多の毎日をすごしていると、通勤中の電車内やエレベーターの中、会議室などで突然息苦しくなる「パニック障害」を発症する人もいる。とくに身体の疾患がないにもかかわらず、突然動機や呼吸困難、めまいなどで苦しくなる「パニック障害」。その原因には「ストレス」が大きく関係していると言われている。自分の心に何が起きているのか。どう向き合えばいいのか。そういったことに興味がある人におすすめなのが、『こころの葛藤はすべて私の味方だ。』だ。著者の精神科医のチョン・ドオン氏は精神科、神経科、睡眠医学の専門医として各種メディアで韓国の名医に選ばれている。本書「心の勉強をしたい人が最初に読むべき本」「カウンセリングや癒しの効果がある」「ネガティブな自分まで受け入れられるようになる」などの感想が多数寄せられている。今回は精神科医で禅僧の川野泰周氏に本書の中でも取り上げられている「パニック障害」について聞いた。

【精神科医が教える】会社がしんどい、もう行きたくない…ストレス過多の人に突然起きる「パニック障害」とはPhoto: Adobe Stock

たまたま体調が悪くなったことがきっかけに

──​『こころの葛藤はすべて私の味方だ。』では「パニック障害」について取り上げています。パニック障害とはどんな病気でしょうか?

川野泰周(以下、川野): パニック障害とは、とくに身体の疾患がないにもかかわらず、突然、動悸、呼吸困難、めまいなどが起き、それに伴って「このまま死んだらどうしよう」など強い不安感が起きる疾患です。電車の中や人ごみの中などで発作が起きることもよくあります。

1回発作が起きたことがあると、「また発作が起きたらどうしよう」と、不安が大きくなります。

そうすると、外出しにくくなるなど、日常の行動が制限されてしまうので、パニック障害を罹患された多くの方は、生活に大きな困難を抱えるようになります。

──​ネットのニュースなどでもパニック障害の話題をよく目にするように思いますが、患者の方も増えているのでしょうか。

川野:患者さんが増えた、というよりも著名人の方などで公表する方が増えている影響があるのではないかと思います。

この本にも書かれていますが、「パニック障害」は、単純な不安感とはまたちがうもので、「条件反射」がつくり出す病気です。

多くの場合、パニック障害を発症するきっかけというのは、ちょっとしたときに体調が悪くなるという出来事なんです。

──​ちょっとしたとき、というと?

川野:たとえば満員電車に乗ったとき、たまたま蒸し暑かった、または冬で暖房がききすぎて暑くなって、その不快さのせいでちょっと体調が悪くなった。

息が苦しくなったり、お腹がゴロゴロ痛くなったり、心臓がドキドキしてきたり。そんな何らかの体調不良がきっかけになって、「このまま次の駅までに倒れちゃったらどうしよう」「お腹を下してしまったらどうしよう」などと思ってるうちに、どんどん不安が強くなってきて、動悸が止まらなくなって、息が苦しくなって、過呼吸になったりするのです。

──​どこかにきっかけがあるんですね。

川野:はい。パニック発作になるきっかけは必ずどこかにあるんです。

でも、それがそのとき1回で終われば、「今日はたまたま体調が悪かった」という単純な体験に過ぎません。この時点では、まだパニック発作とは断定できないわけですね。

1回具合が悪くなったことはあるけど、満員電車って嫌だな、と流せる。

でも、2回3回と繰り返すと、次第に心の中で「不調のパターン」として定着してしまうようになります。

それを繰り返すことによって、「私は満員電車に乗ったら絶対に体調が悪くなる」というふうに自分で条件反射をつくってしまうというわけです。「心と身体の条件反射」ですね。

ストレスが大きく影響する

──​パニック障害はストレスと関係していたりするのでしょうか?

川野:はい、パニック障害という疾患には、ストレスが大きく影響することがわかっています。

ただ、必ずしも多大なるストレスを抱えている人だけがパニック障害になるわけではありません。

最初はなんとなく体調が悪い日に満員電車に乗ったら気持ちが悪くなってしまい、それをきっかけとして、込み合った電車自体に苦手意識を持ってしまった。

それを毎日の通勤で繰り返すうちに、満員電車で発作を起こすのが「自分の心身のルール」になってしまい、パニック障害を発症した。

もはや電車に乗ることを考えるだけで不安が止まらず、日々の通勤自体が大きなストレス源になってしまった。

このように、パニック障害自体が新たなストレスを生み出すというスパイラルに陥ってしまうのです。

そういうわけで、パニック障害を発症しても、そもそも何が原因だったのか、何に対してストレスを抱えていたのかもわからないという方が少なくないんです。

──​なるほど。パニックがストレスを生むのか、ストレスがパニックを生んでいるのかははっきりしないんですね。

川野:はい。ただストレスは多くの場合、パニック障害を悪化させる要因になります。

発症のきっかけ(発症因子)かどうかは人によりますが、ほとんどの場合、「増悪因子」(悪化させる原因)になるということです。