「運動」の驚くべき“癒し効果”にスポットを当てた研究が、今、世界的に注目を集めている。運動すると……「ストレスから守られる」「抗うつ薬に匹敵する“うつ改善効果”が得られる」「レジリエンス因子が増え、不安に強くなる」「遺伝と同レベルの認知症リスクを解消できる」「自然界で2番目に強い“睡眠導入剤”が体内で作られる」など、その驚きの研究結果をまとめたのが“運動×神経科学”の第一人者であるジェニファー・ハイズ博士だ。彼女の研究は、ニューヨーク・タイムズ、BBC、CNN、ハフポストなど、多数の国際的メディアに取り上げられて話題を呼んでいる。その内容を一般向けにわかりやすくまとめた初の著書の邦訳版『うつは運動で消える 神経科学が解き明かした「心の不調」のリセット法』が9月7日に発売となる。今回は、本書の発売を記念して、その内容の一部を特別に公開する。
想像以上にヤバい「座りっぱなし」の悪影響
私の研究室では、学期末試験を控えた「ストレスが多い学生」のメンタルの変化について6週間の追跡調査を行い、運動にストレス誘発性うつ病を予防する効果があることを実証しました。
研究を始めた当初は、いずれの学生も精神的な病気を持たず、運動もしていませんでした。研究では、これらの学生を3つのグループのいずれかに無作為に振り分けました。
★座りっぱなし:6週間座りっぱなし
★中強度連続トレーニング(MICT)グループ:6週間、週に3回、中強度で30分程度自転車を漕ぐ
★高強度インターバルトレーニング(HIIT)グループ:6週間、週に3回、高強度1分、低強度1分の繰り返しを計20分間続ける(HIITトレーニングは、作業負荷に合わせてMICTトレーニングより若干短めに設定した。また、両トレーニングともウォーミングアップとクールダウンの時間を設けた)
6週間のストレスのなかで、座りっぱなしのグループはメンタルの症状が臨床診断に値するほど落ち込んでしまいました。これは、彼らに精神疾患の病歴がないことを考えると、衝撃的なことです。
運動すると「うつ」を予防できる
対して運動グループは、座りっぱなしの学生と同じ心理的ストレス要因にさらされたにもかかわらず、守られました。MICTとHIITのどちらのグループも、ストレスがうつ病を誘発することがなかったのです。ただしMICTを行った学生のほうが、最終的にストレスが少なくなりました。
この研究では、精神的な健康が慢性的なストレスのもとで蝕まれていくことに加え、運動にストレスによるうつ病を予防する効果があることも浮き彫りにしたのです。
(本原稿は、ジェニファー・ハイズ著、鹿田昌美訳『うつは運動で消える ~神経科学が解き明かした「心の不調」のリセット法』の内容を抜粋・編集したものです)
世界トップのキネシオロジー(運動科学)学科を擁するカナダ・マクマスター大学のニューロフィットラボのディレクターであり、運動と神経科学研究の第一人者。主に、身体運動がメンタルヘルスや認知能力にもたらす影響について研究し、受賞多数。その研究は、ニューヨーク・タイムズでの特集をはじめ、CNN、NBC、BBC、ハフポスト、CBSなど、国際的メディアの注目を集めている。初の著書の邦訳版『うつは運動で消える』が2022年9月7日に発売。