早期の前立腺がん、治療しても経過観察でも死亡率は変わらず【英オクスフォード大調査】Photo:PIXTA

 男性が新規に診断されるがん種の第1位は前立腺がんだ。進行・増殖が遅いがんの代表で、5年生存率はほぼ100%、10年生存率も9割を超える。それだけに診断後の治療に迷う。

 がんが前立腺の内部にとどまる「限局性前立腺がん」での治療の選択肢は、外科的な前立腺全摘出術、放射線治療、そして定期的に検査を受けながら無治療で経過を診る「積極的監視療法(監視療法)」の3つ。

 英オクスフォード大学の研究グループは、1999年から3つの治療法の長期経過を比較検討してきた。先月に公開された最新報告では、追跡期間の中央値が15年(11~21年)を経た1643人のデータが解析されている。

 対象者は監視療法(545例)、前立腺全摘出術(553例)、放射線治療(545例)に無作為に分けられ、それぞれの治療を受けた。対象の3分の1は、診断時点で転移・進行リスクが高い中~高リスクがんであった。

 追跡期間中、45例が前立腺がんで死亡。内訳をみると、監視療法群が17例(3.1%)、全摘出術群は12例(2.2%)、放射線治療群では16例(2.9%)と、各群間で有意差は認められなかった。

 一方、「がんの転移」は監視療法群で51例(9.4%)、全摘出術群で26例(4.7%)、放射線治療群は27例(5.0%)だった。病勢を抑えるために、男性ホルモンを遮断するADT(俗に去勢療法とも呼ばれる)は、それぞれ69例(12.7%)、40例(7.2%)、42例(7.7%)で開始され、いずれも監視療法群で有意に多かった。

 研究者は「手術や放射線治療によって転移や長期ADTは減るが、死亡率の低下にはつながらなかった」としている。

 ちなみに監視療法群の133例(24.4%)は、治療を全く行わなかったにもかかわらず、診断後の十数年間、何事もなく生きていた。積極的な治療を行った場合、過剰医療の可能性もあったわけだ。

 早期の前立腺がんと診断された際は、慌てずに主治医と相談する冷静さが必要だ。その際、監視療法も頭に入れておきたい。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)